ダイニングと高気密高断熱 〜現代生活の新しい必須基盤〜

ダイニングと高気密高断熱|冬の朝の食卓で足元が冷えている場面

冬の朝、いちばん先に冷えを感じるのは、足の裏かもしれません。ダイニングの椅子に腰を下ろした瞬間、床から上がってくる冷たさ。暖房はついているし、設定温度も上げてあります。それなのに、足元だけがいつまでも冷えている。── そんな朝を、何度も過ごしてこられたのではないでしょうか。

家づくりの情報を探すと、「高気密高断熱」という言葉に必ずぶつかります。ところが、いざ調べてみると出てくるのはアルファベットと数字の並びです。ユーエー値、シー値、断熱等級6、ゼッチ水準。読み進めるうちに、自分がそもそも何を知りたかったのか分からなくなってくる。しかも会社によって「これが目安です」と示す数字が違います。知りたかったのは数字ではなく、その数字が自分の暮らしの何を変えるのかだったはずなのに。

私は住宅設計の経験を経て、現在は作業療法士として活動しています。建築の視点で「器としての住まい」を、作業療法の視点で「そこで人が何をして、どれだけの時間を過ごすか」を、両方から見てきました。訪問の仕事で家に上がるたびに思うのは、住まいの性能は数字の優劣ではなく、その家に住む人が、どれだけ無理をしなくて済むかにつながっているということです。これは侮れないことだと感じています。

この記事は、高気密高断熱の教科書です。何がどう効くのか、言葉は何を表しているのか、いまの基準はどうなっているのか、そしてご自分の家はいまどんな状態にあるのか。順を追って、専門用語をひとつずつ日本語に置き換えながらお伝えします。

読み終えたとき、住宅会社のカタログやモデルハウスで聞いた説明が、はじめて「意味のある言葉」として頭に入ってくるはずです。何を聞けばいいのか、どこまで求めればいいのか、そしてどこからは求めなくてよいのか。その線引きが、ご自身で引けるようになります。

大切なことを先にお伝えします。高気密高断熱は、寒さや光熱費のためだけのものではありません。性能とは、暮らしの余白のことです。器の性能が足りない家では、住まい手が暮らし方の工夫でその不足を埋め続けなければなりません。性能が上がるほど、その埋め合わせが要らなくなっていく。この記事で繰り返しお伝えするのは、この一点です。

なお、この記事では特定の工法や断熱材、会社の比較はしません。どれが優れているかを決めるのは私の仕事ではなく、判断の材料をお渡しするのが役目だと考えているからです。

そしてもうひとつ。この話は、これから家を建てる方だけのものではありません。すでに建っている家に住んでいる方にこそ、知っておいてほしいことがあります。記事の後半に、いまの住まいのままできることをまとめました。どうぞ最後までお付き合いください。

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目次

この記事を読むと得られること

  • 高気密高断熱が、暮らしの何をどう変えるのか具体的な場面として分かる
  • UA値・C値・断熱等級といった言葉が、それぞれ何を測っているのかが分かる
  • 2025年4月から新築の決まりが変わったこと、そして「等級4」の意味が入れ替わったことが分かる
  • 性能をどこまで求めればよく、どこからは求めなくてよいのか、その線引きが手に入る
  • いま住んでいる家の性能を確かめる方法と、今日から手を打てることの順番が分かる

高気密高断熱は、暮らしの何を変えるのか

言葉の説明から入ると、たいてい途中で読むのが嫌になります。ですから先に、効果のほうからお話しします。

① 部屋と部屋の温度差が小さくなり、体の感じ方が変わる

国が編集に協力した住まい方の公的なガイドは、断熱性能が低い住宅で起きることを、こんな経験として書いています(環境共生住宅推進協議会「省エネ性能に優れた断熱性の高い住宅を住みこなす 住まい方ガイド」、2024)。部屋がなかなか暖まらず設定温度を上げてしまう。窓や壁の近くにいると冷える。部屋の上のほうは暖かいのに足元が暖まらない。暖房していない部屋や廊下、浴室が冷え切ってしまう。

思い当たるものがあったなら、それは我慢が足りないのでも、暖房の使い方が下手なのでもありません。同じガイドは、これらの原因を「床・壁・天井などの躯体や窓・ドアなどの開口部の断熱性能が低いため」と説明しています。躯体(くたい)とは、建物の骨組みのこと。つまり、器の側で起きている現象です。

温度計が20℃を指していても寒く感じるのも、同じ理由からです。人の体は空気の温度だけでなく、まわりの壁・床・天井・窓の表面温度からも影響を受けています。同じ空気20℃でも、まわりの表面が10℃なら体感はおよそ15℃。表面も20℃なら、体感もおよそ20℃です(健康に暮らす住まいの設計ガイドマップ)。

断熱を上げるというのは、空気を暖める話ではなく、壁や窓や床の表面を冷たくしない話なのです。窓の近くで冷やされた空気が壁を伝って足元に溜まる降下冷気(コールドドラフト)も、窓面が冷たくなくなれば起きにくくなります。

② 暖房と冷房のエネルギーが減り、少ない台数でまかなえる

本州の温暖な地域を想定した試算では、暖房に必要な熱量がこう下がっていきます(設計ガイドマップ。民間の高断熱基準HEAT20のG1〜G3のシナリオに基づく試算)。UA値0.87(いまの省エネ基準にあたる水準)を100としたとき、0.56で約60、0.46で約45、0.26で約25。性能を上げると、暖房にかかる負担が半分以下になるという試算です。同時に、冬に室温がいちばん下がるときの体感温度も上がり、寒い時間そのものが減っていきます

台数の話も変わります。前出の住まい方ガイドは、断熱性能を高めた住宅では少ない台数のエアコンで家全体をまかなう計画があること、その場合は各部屋のドアや欄間(らんま/ドアの上にある開口)を開けて家全体をひとつづきの空間として扱うと、部屋の間の温度差が小さくなることを説明しています。

③ 結露が減ってカビが出にくくなり、家そのものが長持ちする

結露は、暖かく湿った空気が冷たい面に触れて起こります。窓や壁の表面が冷たくなくなれば、その条件が成立しにくくなる。

見えるところの結露より、実はやっかいなのが壁の中の結露です。断熱等性能等級は、断熱材の性能だけを見ているわけではありません。結露の発生を防ぐ対策も、等級の基準の中に組み込まれています。防湿層、通気層、そして熱橋(ねっきょう/柱や梁など、熱が伝わりやすくなる部分)の補強。等級4以上ではこれらが求められています(国土交通省「住宅性能表示制度の省エネ上位等級の創設」)。壁の中で結露が起きれば、柱や土台が湿った状態に置かれ続けます。断熱と気密は、家の骨組みを濡らさないための話でもあるのです。

④ 換気が、設計したとおりに働く

いまの住宅には、24時間動かし続ける換気設備の設置が法律で義務づけられています。ところが家の隙間が多いと、この換気が計画どおりに働きません。給気口から入って部屋を通り、排気口から出ていく。そういう道筋を設計しているのに、隙間だらけだと空気は近くの隙間から入って近くの隙間から出ていき、部屋の奥の空気が入れ替わらないのです。

⑤ 血圧の変動がゆるやかになり、停電しても室温が急には落ちない

暖かい居間から冷えた脱衣室へ移り、熱い湯に浸かり、また冷えた脱衣室に戻る。この間、体の中では血圧が大きく上下しています。設計ガイドマップは、この流れと、その先にある脳や心臓のリスクを一続きの図として示しています。家の中の温度差が小さくなるということは、この上下動の振れ幅が小さくなるということです。

熱が逃げにくいということは、暖房や冷房が止まったあとも室温が急には変わらないということでもあるのです。住まい方ガイドは、断熱性能の高い住宅の特徴のひとつとして、災害時でも日常生活を維持しやすい点を挙げています。

なお、隙間が減って外の音が入りにくくなるという声もありますが、これは防音を目的に設計された構造とは別物で、副次的についてくるものと考えておくのが正確なところでしょう。

ただし、いいことばかりではありません

教科書として、注意点も対にしておきましょう。

  • 冬に乾燥しやすくなる:暖かさを保ちやすいぶん、相対湿度が下がります。乾いた外気を計画的に取り入れていることも要因です(住まい方ガイド)。ただし気密が高い家は加湿した空気を保ちやすいので、加湿の効きも良くなります
  • 加湿のしすぎは、逆に結露を招く:断熱性能の高い窓でも、加湿が過ぎれば結露するのです。温湿度計を置いて、湿度を確かめながら加湿してください
  • 夏は、熱がこもる:いったん入った熱も出ていきにくいということです。高断熱の家ほど、夏の日よけが重要になります
  • 換気設備の手入れが要る:給気口と排気口のフィルターが目詰まりすると、換気の効果が落ちます
  • 開放式の暖房器具とは相性が悪い:室内に燃焼ガスと水蒸気を出す暖房は、湿気と空気質の両面で不利になります。この点は、後ろの章で調査の結果とあわせて取り上げましょう
  • 建てるときの費用は上がる:だからこそ「どこまでやれば十分か」を考える必要があり、そのための章を後ろに用意しました
  • 図面だけでは決まらない部分がある:断熱性能は設計図から計算できますが、気密性能は建てて測るまで分かりません。同じ図面でも、施工の丁寧さで結果が変わるということです

この章で持ち帰っていただきたいのは、ひとつだけです。高気密高断熱は「寒くない家」の話ではなく、温度・空気・湿気・建物の寿命・災害時の安心までを一度に動かす、家の土台の話だということ。

ダイニングにとって、それは何を意味するか

家全体の話をダイニングに引き寄せます。なぜダイニングなのか。家の中でいちばん、性能の差が体に出やすい場所だからです。

長い時間、同じ姿勢で座り続ける。食事のあいだは動かないので、体が作る熱が少ない。しかも足は床に着いています。ダイニングは、家の温熱環境に対してほとんど無防備な場所なのです。

朝いちばんの食卓

暖房を切って眠り、朝また点ける。この「切っていた時間」に、家の性能がそのまま出ます。朝の食卓が何℃から始まるかは、暖房の力ではなく夜のあいだにどれだけ熱が逃げたかで決まるからです。

性能の低い家では、朝の支度をしながら暖房が追いつくのを待つことになります。性能が上がると、そもそも下がりきらないので、待つ時間が要らなくなる。朝食は家族がいちばん急いでいる時間でもあるでしょう。その15分が、一日の始まり方を変えます。

足元と、窓際の席

先ほどの降下冷気は、ダイニングでもっとも問題になります。座っていると、体はちょうどその冷気の層の中にあるからです。しかも壁の温度計は、たいてい大人の目の高さに付いている。温度計が測っているのは、あなたの頭の高さの空気です。

窓のそばの席は、冬は冷たい面に向き合い、夏は日射を受けます。家族の中で誰がそこに座るかは、たいてい暗黙のうちに決まっているものです。窓の断熱性能が上がって表面が冷たくなくなれば、この「席による当たり外れ」が小さくなります。

床の冷たさと床材の関係はダイニングの床材選びで、窓の方角と日射の入り方はダイニングの窓、家族の健康を変える3つの目安で扱っています。

食卓の空気

ダイニングはキッチンと地続きの場所であることが多い。調理の煙や匂い、湯気が流れてくるのです。気密が確保されて換気が計画どおりに働く家では、この空気がきちんと入れ替わります。食べる場所の空気は、換気設備の有無ではなく、その設備が働ける家かどうかで決まるわけです。

家族で「暑い」「寒い」が割れなくなる

同じ食卓に座っていても、感じ方は人それぞれ違います。台所で火を使っていた人と、座って待っていた人。もともと差があるところに席による温度差が上乗せされると、開きはさらに広がります。

室内の温度ムラが小さくなると、この上乗せ分が減ります。もともとの個人差は残りますが、住まいのせいで広がっていた分は縮む。リモコンをめぐる小さな交渉が減るのは、そのぶんです。詳しくはダイニングの温度の考え方で整理しています。

長く使う場所ほど、差が積み上がる

小さなお子さんがいるご家庭では、ダイニングの床は遊び場でもあります。床の表面温度は、大人が椅子で感じるより、ずっと直接に子どもの体に触れています。床暖房のような設備を足す前に、そもそも床が冷えない家かどうかを見る。順番としては、そちらが先です。

ダイニングは、食事のためだけの場所ではなくなりました。宿題、書きもの、在宅の仕事。短時間なら我慢できることも、毎日3時間なら我慢の対象ではなくなります。ダイニングの性能を考える意味は、ここにあります。

あなたのダイニングは、何のための場所ですか

ここで一度、数字から離れます。性能をどこまで求めるかを決める前に、その場所で何をしたいのかが先だからです。

順番を逆にすると、たいてい失敗します。等級を先に決めて暮らしを当てはめようとすると、必要のないところにお金をかけ、必要なところが抜けたままになる。数字は目的ではなく、望む暮らしに届くための手段です。

次の5つを、ご家族で言葉にしてみてください。

  • 大切なこと:あなたにとって、その食卓でいちばん守りたいものは何ですか。会話でしょうか、静けさでしょうか、子どもの様子が見えることでしょうか
  • なぜ・何を:なぜダイニングでそれをするのですか。食事のほかに、そこで何をしていますか
  • いつ・誰と:その場所をいちばん長く使うのは、何時ごろ、誰ですか。朝の20分なのか、夜の3時間なのか
  • 意味:その観点から見たとき、ダイニングはあなたの暮らしにとってどんな意味を持つ場所ですか
  • 環境:いまの温度、空気、窓、床は、それに沿ったものになっていますか。ずれているとしたら、どこがいちばん大きくずれていますか

答えは家庭ごとに違って当然です。朝しか使わない食卓と、一日の大半を過ごす食卓では、必要な性能も変わります。同じ「高気密高断熱」という言葉でも、あなたの家にとっての正解の位置は、ここで決まります

暮らしから住まいを考える手順そのものは、価値観に沿ったダイニングづくりで、より丁寧なワークをご用意しています。ここまでで「なぜ気にする必要があるのか」と「自分は何を望んでいるのか」が揃いました。ここから先が、言葉と数字の話です。

高気密高断熱の基礎知識

ここからは言葉の意味を、ひとつずつ確かめていきます。ここを押さえておくと、住宅会社の説明が別物に聞こえてくるはずです。

そもそも、熱はどこから逃げるのか

熱の伝わり方には3つあります。伝導(物を伝わる。冷たい床に足を置くと熱が奪われる)、対流(空気の動きが運ぶ。窓で冷やされた空気が足元に溜まる)、放射(離れていても伝わる。冷えた壁のそばで寒く感じる)。

家の熱は、屋根、外壁、床、そして窓や玄関ドアといった開口部から出ていきます。加えて、隙間からも、換気の空気に乗っても出ていく。このうちもっとも熱が出入りしやすいのが、窓などの開口部です。壁には断熱材を厚く入れられますが、窓はガラスとサッシでできていて、同じ厚みは確保できません。

なお「窓から何%の熱が逃げる」という数字を見かけますが、その割合は想定した住宅の断熱性能によって大きく変わります。割合を覚えるより、「開口部がいちばん弱い」という順序を覚えるほうが役に立ちます

家の熱が出入りする場所と、3つの伝わり方
図:家の熱が出入りする場所。窓などの開口部は、壁ほど厚い断熱を確保できない。

断熱の物差し── UA値

いま、住宅の断熱性能を表す指標は UA値(ユーエーち/外皮平均熱貫流率) です。家全体から逃げる熱の量を、外皮(がいひ/壁・屋根・床・窓を合わせたもの)の面積で割った数字で、単位は W/(㎡・K)。数字が小さいほど、熱が逃げにくいという意味になります。直感と逆なので、最初に押さえておいてください。

そしてもうひとつ、大事な性質があります。国土交通省の資料では、UA値は「住戸内外の温度差1度当たりの総熱損失量(換気による熱損失量を除く。)を外皮の面積で除した数値」と定義されています(国土交通省「住宅性能表示制度の省エネ上位等級の創設」)。

UA値は、壁や窓を通って逃げる熱だけを見ていて、換気や隙間から出ていく分は最初から計算に入っていません。つまりUA値が良い家が、必ずしも「熱が逃げない家」とは限らない。ここに、あとで出てくる気密の話がつながります。

断熱等性能等級と、地域区分

UA値は数字なので、そのままではカタログに載せにくい。そこで住宅性能表示制度では、UA値の水準を等級として整理しています。これが 断熱等性能等級 です。等級1から7まであり、数字が大きいほど断熱性能が高い。等級1は「その他」、つまり基準を満たさないものを指します。

ここで初心者の方がいちばん戸惑うのが、「等級6ならUA値0.46」は全国共通ではないということです。日本は南北に長いので、全国を1地域から8地域に分け、地域ごとに基準値を定めています。同じ等級でも、寒い地域ほど厳しい数字が求められます。

断熱等性能等級とUA値の地域区分別一覧
図:断熱等性能等級とUA値の対応。同じ等級でも、地域区分によって求められる数字が変わる。

※ 単位は W/(㎡・K)。数字が小さいほど熱が逃げにくい。出典は国土交通省「住宅性能表示制度におけるZEH水準を上回る等級について」。8地域には等級7が設定されておらず、等級6も UA値ではなく夏の指標で定義されています。

代表的な都市では、1地域が夕張、2地域が札幌、3地域が盛岡、4地域が会津若松、5地域が水戸、6地域が東京、7地域が熊本、8地域が沖縄などにあたります。お住まいの市町村がどの地域区分かは、「地域区分 市町村」で検索すると、国土交通省が公表している一覧表(市町村ごとに1〜8の番号が振られたもの)が見つかります。同じ県内でも標高によって分かれることがあるので、県名で判断しないほうが確実です。住宅会社に「うちの土地は何地域ですか」と聞いても、すぐに答えてもらえます。

よくある誤解をひとつ。民間の高断熱基準に HEAT20 があり、G1・G2・G3という段階が設けられています。「等級6はG2、等級7はG3」と説明されることがありますが、これが成り立つのは6地域と7地域だけです。5地域では、等級6が0.46に対してG2は0.34。別の水準になります。

断熱の工法と、窓

断熱材をどこに入れるかで、工法は3つに分かれます(設計ガイドマップ)。柱と柱の間に入れる充填断熱(105mm角の柱なら厚みは最大105mm程度)、構造材の外側を覆う外張り断熱(50mm程度)、その両方を組み合わせる付加断熱です。断熱材にもグラスウール、押出法ポリスチレンフォーム、フェノールフォーム、セルロースファイバーなど種類があります。この記事では、どれが優れているかは書きません。同じ材でも厚みと施工で結果が変わり、条件を揃えずに比べても意味がないからです。

開口部が弱点である以上、窓の仕様は性能に直結します。見るところは2つ。サッシ(枠)の素材(アルミ、アルミと樹脂の複合、樹脂、木製。アルミは熱を通しやすく、樹脂や木は通しにくい)と、ガラスの構成(単板、複層、トリプル。表面に金属膜をコーティングして放射を抑えた Low-E(ローイー)ガラスや、ガラスの間に熱を通しにくいガスを封じたものもあります)。

Low-Eガラスに2種類あることも知っておくと役に立ちます。日射の熱を取り込む日射取得型と、遮る日射遮蔽型です(設計ガイドマップ)。寒冷地なら南面は取得型で冬の日射を活かし、東西面は遮蔽型にする。方角によって、選ぶガラスが変わりうるということです。

気密の物差し── C値と、3つの目的

気密の指標は C値(シーち/相当隙間面積) です。家じゅうの隙間の面積を合計し、床面積1㎡あたりに換算した数字で、単位は ㎠/㎡。小さいほど隙間が少ない。UA値と同じで、小さいほうが良い向きです。

隙間をふさぐ理由は、寒くないようにするためだけではありません。国土交通省住宅局が編集に協力した設計ガイドは、気密化の目的を3つ挙げています(環境共生まちづくり協会「省エネ性能に優れた断熱性の高い住宅の設計ガイド」、2025)。

  1. 漏気による熱損失を抑えること:隙間から熱が逃げるのを防ぐ
  2. 換気経路を明確にして、計画換気を行うこと:設計した道筋で空気を入れ替える
  3. 壁体内への湿気の流入を抑えること:壁の中に湿気を入れず、結露を防ぐ

同じガイドは「断熱性が高ければ高いほど、隙間からの漏気による熱ロスを防ぐための気密性が重要であり、断熱と気密はセットで考えることが必要です」とも述べています。

気密化がねらう3つの目的
図:気密化がねらっている3つのこと。熱・空気・湿気は、それぞれ別の話。

なぜ、C値には国の基準がないのか

ここは誤解が多いので、ていねいにお話しします。いまの国の省エネ基準に、気密性能の数値基準はありません。かつては存在しましたが、平成21年の省エネルギー判断基準の改正で削除されました。

理由は国土交通省の会議資料に原文があります。もともと「漏気による熱損失量の削減、壁体内結露の防止の観点から」相当隙間面積を規定していたが、施工技術と施工精度の向上、建材・工法の変化により、構造形式にかかわらず一定程度の気密性が確保される状況になったこと。また、多様な方法で気密性を確保できることが明らかになってきたこと── という趣旨です(国土交通省「住宅に係る省エネルギー判断基準の改正について」)。

読み取っておきたいのは、「気密が重要でなくなったから消えた」のではないということです。消えたのは基準であって、性能そのものではありません

目安がまったくないわけでもありません。前出の設計ガイドは「気密性能の基準は定められていませんが、ひとつの目安として、HEAT20では、断熱のレベルにかかわらず目指すべき気密性能C値は 0.7±0.2 ㎠/㎡としています」と書いています。国の基準ではないけれど、公的な資料が目安として紹介している数字がある。ここまでが、確かに言えることの範囲です。

そしてもうひとつ、決定的な性質があります。

気密性能は計算では求めることができず、実測で確認することになります。

UA値は図面から計算できますが、C値は実際に建てた家を測らないと分かりません。専用の機械で家の中の空気を排出し、圧力差から隙間の量を割り出します。つまりC値は、設計の約束ではなく施工の結果です。測っていない家のC値は、誰にも分かりません

夏の物差し── ηAC値

基準には夏の指標もあります。ηAC値(イータ・エーシーち/冷房期の平均日射熱取得率) です。夏に日射の熱がどれだけ室内に入ってくるかを表し、小さいほど日射が入りにくい

ここで、知っておくと役に立つことがあります。まず、ηAC値の基準が設けられているのは5地域から8地域までです。1地域から4地域(北海道や東北など、寒さの厳しい地域)には、そもそも設定がありません。

そして5地域から7地域では、その基準は断熱等級4から7まで同じ値です。等級を上げても、夏の日射に対する要求は変わりません(8地域だけは扱いが別で、等級6が夏の指標で定められています)。

言い換えると、断熱等級を上げただけでは「夏に強い家」にはならないということです。

そして断熱性能が高い家ほど、いったん入った熱は出ていきません。住まい方ガイドは、窓の内側でカーテンを使って日射を遮った場合は日射熱の約60%が室内に入るのに対し、窓の外側でブラインドなどを使えば約20%まで減るという比較を示しています。日射は、入る前に外で止めるほうが効きます

換気── 法律で義務になっているもの

高気密の話をすると、必ず「息苦しくならないのか」という疑問が出てきます。住宅には、24時間動かし続ける機械換気設備の設置が義務づけられています。2003年(平成15年)7月1日に施行された、いわゆるシックハウス対策によるものです。住宅では換気回数0.5回/h以上、つまり1時間に部屋の空気の半分が入れ替わる能力が求められます(国土交通省「建築基準法に基づくシックハウス対策について」)。

先ほどの平成21年の改正では、省エネ基準側の「換気量の確保に係る規定」も同時に削除されています。理由は「建築基準法において換気量の確保が規定されたことを踏まえ」でした。換気の義務は、省エネの制度から建築基準法へ引き継がれた形です。

ここで話がつながります。換気は法律の義務。気密には基準がない。しかし気密が低いと、義務であるはずの換気が設計どおりに働かない。高気密が単なる付加価値ではない理由は、ここにあります。

住宅で使われる24時間換気は、主に2つに分かれます。給気も排気も機械で行う第1種換気は、熱交換の機能を組み合わせやすいのが特徴です。排気だけを機械で行い、給気は給気口から自然に取り入れる第3種換気は、仕組みが簡単で費用を抑えやすい。

熱交換とは、捨てる空気の熱を、取り入れる空気に移してから室内へ送る仕組みです。温度だけを交換する顕熱交換と、温度と湿度の両方を交換する全熱交換があり、全熱交換は冬の乾燥を和らげるのに向くとされています(設計ガイドマップ)。

どちらの方式が正解と決まっているものではありません。ただし共通して言えるのは、気密が確保されていなければ、どちらも設計どおりには働かないということです。住まい方ガイドは、冬に寒く感じても換気設備を止めないよう促しています。

第1種換気と第3種換気の違い
図:第1種と第3種で、どこが機械でどこが自然かが違う。

器の性能と、設備の燃費は別物

混同されやすい2本立てがあります。断熱等性能等級が器そのものの性能を表すのに対し、一次エネルギー消費量等級は、暖冷房・給湯・照明・換気といった設備まで含めた家全体の燃費を表します。指標は BEI といい、数字が小さいほど省エネです。

一次エネルギー消費量等級要求値意味
等級4BEI ≦ 1.0省エネ基準どおり
等級5BEI ≦ 0.9省エネ基準より10%減
等級6BEI ≦ 0.8省エネ基準より20%減(太陽光発電による削減は見込まない)

よく聞く ZEH(ゼッチ)水準とは、断熱等性能等級5 かつ 一次エネルギー消費量等級6 を満たすものを指します(国土交通省「住宅性能表示制度の省エネ上位等級の創設」)。器と設備の両方に条件がある、ということです。

制度はいま、どこへ向かっているか

  • 2022年:ZEH水準として断熱等級5・一次エネ等級6を新設。同じ年に、ZEH水準を上回る断熱等級6・7が設けられました(戸建の場合。施行は令和4年10月)
  • 2025年4月1日原則としてすべての新築住宅・非住宅に、省エネ基準への適合が義務づけられました。同日以後に工事に着手するものから適用されます(10㎡以下など、ごく小規模なものは除きます)
  • 2030年度まで:省エネ基準を段階的に引き上げ、新築はZEH・ZEB水準を目指す
  • 2050年:既存の住宅も含めたストック全体の平均で、ZEH・ZEB水準へ

出典は国土交通省「建築基準法・建築物省エネ法 改正法制度説明資料」および同「ZEH水準を上回る等級について」。いまの義務ラインは、2030年には最低ラインではなくなる予定です。

断熱の物差しと制度の移り変わり
図:断熱の物差しと制度が、どう入れ替わってきたか。

消えた指標── Q値

古い資料には Q値(キューち/熱損失係数) が出てきます。家から逃げる熱を床面積で割った、かつての断熱性能の指標です。

いまの省エネ基準では使われていません。UA値は外皮面積で割るので分母が違い、Q値とUA値は単純に換算できません。「Q値いくつはUA値いくつ」という変換式を見かけても、そのまま信じないほうが安全です。いまでも自社の基準としてQ値を併記している会社はありますが、他社と比べるときはUA値で揃える。それだけ覚えておけば十分です。

要は、どこを見ればいいのか

言葉がたくさん出てきました。最後に、迷ったときに立ち返る形にまとめておきます。

見るもの何を表しているかどう考えればよいか
UA値(断熱)壁や窓から熱がどれだけ逃げるか。小さいほど逃げにくい等級とお住まいの地域区分をセットで確認する。2025年4月から等級4相当が義務。10年後まで考えるなら、ZEH水準(等級5)以上が一つの区切り
C値(気密)隙間の量。小さいほど隙間が少ない国の基準がないので、数字の大小より「測っていますか」と尋ねる
換気空気を入れ替える仕組み。設置は法律の義務第1種か第3種かよりも、気密が伴っているか。そして止めずに動かし続けること
ηAC値(夏)夏に日射がどれだけ入ってくるか基準があるのは5〜8地域(1〜4地域には設定なし)。5〜7地域では等級4から7まで同じ値。夏は、日よけとガラスの選び方という別の話

ひとことで言えば、こうなります。冬の寒さは断熱と気密で、夏の暑さは日よけで、空気は換気で。そして気密は、数字ではなく「測っているか」という姿勢で見る。

覚えておいていただきたいのは、断熱(UA値)・気密(C値)・換気は、三つで一組だということです。どれかひとつだけを高めても、家は期待どおりには働きません。

断熱・気密・換気の三点セット
図:断熱・気密・換気が、それぞれ何を担っているか。物差しの有無と、確かめ方の違いもあわせて。

文献とリサーチから見えてきたこと

言葉の意味が分かったところで、いま何が分かってきているのかをお伝えします。

いまの日本の家は、どのくらいの性能なのか

まず、全体の地図から。国土交通省が推計した、日本の住宅ストック(すでに建っている家)の断熱性能の分布です。

断熱等性能等級相当する基準割合
等級1(無断熱)29%
等級2昭和55年基準36%
等級3平成4年基準22%
等級4平成11年基準13%

※ 国土交通省調査によるストックの性能別分布を基に、住宅・土地統計調査による改修件数および事業者アンケート等による新築住宅の省エネ基準適合率を反映して国土交通省が推計(令和元年度)。日本サステナブル建築協会「住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査 第9回報告会」資料より。

日本の住宅ストックの断熱等級の分布
図:すでに建っている住宅の断熱等級の分布。国土交通省の推計(令和元年度)による。

いちばん多いのは等級2です。等級1と合わせると、6割を超えます。そして、2025年4月から義務になった等級4の水準に届いている家は、13%にとどまります。

この数字は、責める材料ではなく地図として受け取ってください。冬の朝に足元が冷えるのも、暖房がなかなか効かないのも、日本の家の大多数がその状態にあるということです。

「等級4」の意味が、ここ数年で入れ替わった

もうひとつ、混乱のもとになっている事実があります。数年前まで、断熱等性能等級は等級4が最高等級でした。2022年に等級5が、続いて等級6・7が設けられ、2025年4月には等級4相当の省エネ基準が義務になりました。かつての最高ランクが、いまの最低ラインです。

古いカタログや数年前の記事では、等級4が誇らしい性能として紹介されています。それを読んだ人が、いまの説明と突き合わせて混乱する。あるいは築10年ほどの家にお住まいの方が「うちは等級4だから大丈夫」と思っている。同じ言葉の意味が、途中で入れ替わっているのです。

大事なのは、当時その家を選んだ判断が誤っていたわけではない、という一点でしょう。変わったのは家ではなく、物差しのほうです。

等級6・7は、何を根拠に決められたのか

新しい上位等級は、思いつきで作られたわけではありません。国土交通省の資料は、等級6・7について「暖冷房にかかる一次エネルギー消費量の削減率(概ね30%削減、概ね40%削減)を目安として設定する」と書いています。6地域(東京など)で、等級4を基準にした暖冷房エネルギーの削減率は、等級5で28%、等級6で31%、等級7で43%(同資料の試算値)。

等級を1つ上げれば、そのぶん比例して光熱費が下がるわけではないことが、この並びから読み取れます。この話は次の章で扱います。

結露とカビは、健康とつながっている

住宅の断熱と健康については、国土交通省のスマートウェルネス住宅等推進事業として、全国規模の調査が続けられています。その最新の報告の中に、室内の結露やカビと、居住者の健康状態の関係を調べた解析があります(日本サステナブル建築協会「第9回報告会」資料、2025年2月)。断熱改修をした戸建住宅に住む方を、結露もカビのにおいもない住まい、結露はあるがカビのにおいはない住まい、カビのにおいがある住まいの3つに分けて比べたものです。

結果として、結露もカビのにおいもない住まいと比べて、結露が発生した住まい、さらにはカビが発生した住まいの居住者のほうが、咳や痰、鼻汁の症状が重かったと報告されています(対象は238名。年齢・性別・喫煙や飲酒の習慣・ペットの有無に加えて、室温が18℃を下回っていた時間の割合まで調整したうえでの結果。ただしカビのにおいがあるグループは26名と少なく、統計的にはっきりした差が出たのは「カビのにおいがある住まい」と「鼻汁」の組み合わせ1つだけで、研究者自身も「悪影響を及ぼす可能性」という慎重な書き方をしています)。

室温の影響を差し引いてもなお関係が見えた、という点が大切です。寒さとは別に、湿気とカビという軸があるということだからです。

この方向は海外の研究とも一致しています。室内の湿気とカビに関する疫学研究を広くまとめたレビューは、湿気やカビが喘息の悪化や新たな発症と強く一貫して関連し、咳・喘鳴・呼吸困難・アレルギー性鼻炎を訴える人の割合が高いことを報告しています(Mendellら、Environmental Health Perspectives、2011)。

つまり、結露は「拭けば済む冬の面倒ごと」ではありません。その先に、食卓を囲む家族の呼吸がつながっている可能性があるということです。

とはいえ、ここで不安になっていただく必要はありません。結露は、いまの住まいのままでも減らせます。何から手をつけると効きやすいかは、記事の最後にまとめました。

断熱が低い家ほど、暮らし方に左右される

同じ報告には続きがあります。結露やカビが発生するかどうかは、家の性能だけで決まるのではなく、住まい方も関係していたというのです。具体的には、開放式の暖房器具を使っていると結露やカビの発生が増え、機械換気を実施していると抑えられていた。燃やした分だけ、室内に水分が放出されるからです(なおこの調査は、エアコン暖房を使っている場合の影響までは考慮できていません)。この点は、暖房・換気とカビの関係を国の専門家評価に基づいて整理したフランスの報告とも重なります(Ginestetら、Building and Environment、2020)。

そして、まとめにこう書かれています。

断熱性能が低い住宅において、すまい方が結露やカビの発生に強く関連していた

言い換えると、断熱性能が低い家ほど、住まい手の暮らし方が結果を左右する。性能が高い家では、暮らし方の影響が小さくなる。

これは、性能を語るときの三つ目の理由になると私は考えています。寒くないため、光熱費のため── そのどちらでもなく、暮らし方の自由度を買うためです。

性能の足りない家では、住まい手が働き続けなければなりません。暖房の種類に気をつけ、換気を欠かさず、洗濯物の干し方を考え、窓を拭く。ひとつ気を抜くと、結露やカビという形で返ってくる。一方、性能の高い家では多少のことでは崩れません。同じ暮らし方をしても、結果が変わるのです。

私はこれを「余白」と呼んでいます。冬の朝に足元が冷えることも、窓が結露することも、あなたの努力が足りないからではありません。器の側の余白が、もともと少ないだけかもしれないのです。

ただし、断熱を上げるだけでは足りない

逆向きの報告もお伝えしておきます。中国で建築年代ごとに住宅の湿気・カビと子どもの疾患を調べた研究では、2001年以前の建物で湿気やカビの訴えがもっとも多かった一方、2001〜2010年の建物と比べて2010年以降の建物では、断熱の向上と空気の入れ替わりの少なさによって相対湿度が高くなり、カビの指標が増加したと報告されています(Duら、Indoor Air、2021。気候も工法も日本とは異なる地域の調査であり、そのまま当てはめられるものではありません)。

断熱を上げること自体が悪いという話ではありません。断熱を上げたのに換気が伴っていないと、かえって湿気が溜まりうるという話です。「断熱・気密・換気は三つで一組」が、ここでも同じ形で出てきます。

なお、断熱性能を上げることが医療経済の面から見合うのかを検討した研究もあり、新築時に性能を上げる場合と既存住宅を改修する場合とでは判定が大きく分かれています。この点はダイニングの床材選びで触れました。

この章で持ち帰っていただきたいのは、ひとつです。性能は、暮らし方の自由度を買うもの。そして、いま住んでいる家の性能が低いとしても、それは日本の家の大多数がそこにいるということ。ここから何ができるかを、最後の2つの章でお伝えします。

どこまでやれば、十分なのか

性能の話は、ともすると「高ければ高いほどよい」に流れます。ここでは、上げ止まりの見つけ方をお伝えします。

等級を上げるほど、比例して効くわけではない

前の章の数字をもう一度見てください。6地域で、等級4を基準にした暖冷房エネルギーの削減率は、等級5で28%、等級6で31%、等級7で43%でした。等級5から等級6への差は、わずか3ポイントです。一方、等級6から等級7では12ポイント動きます。効き方は一直線ではありません。

もちろん、エネルギーの削減率がすべてではありません。性能が上がるほど、冬にいちばん室温が下がるときの体感温度も上がり、寒い時間そのものが減っていきます。光熱費だけを見るか、寒い時間の長さも見るかで、判断が変わるわけです。だからこそ、前半でご自分の暮らしを言葉にしていただきました。朝の20分しか使わない食卓と、一日の大半を過ごす食卓では、投じるべき手間の量が違って当然です。

夏は、等級の話ではない

大切なので二度書きます。5地域から7地域では、ηAC値の基準は断熱等級4から7まで同じ値です(1〜4地域には、そもそも設定がありません)。「等級7の家を建てたから夏も涼しいはずだ」とはなりません。夏の暑さ対策は、庇や外付けの日よけ、ガラスの選び方、日射が強い時間に窓を覆う運用という別立ての話です。

むしろ断熱性能が高い家ほど、いったん入った熱は出ていきません。高性能の家であるほど、夏の日よけを軽く見てはいけないということです。

基準のないものを、どう考えるか

気密(C値)には国の基準がありません。数字で線を引くことは、私にはできません。国が数値を定めていない以上、「いくつ以下でなければならない」と言い切るのは根拠を超えた話になります。会社によって示す数字がばらつくのも、拠りどころとなる基準がないからです。

代わりにお渡しできる判断材料があります。それは「測っているかどうか」です。C値は計算では出せず、建った家を実測するしかない。ということは、気密を実測して数値を出している会社は、少なくとも自社の施工の結果を確かめているということになります。測っていなければ、良いのか悪いのかを誰も知りません。

数字の大小を比べる前に、測っているかどうかを尋ねる。製品の比較ではなく、姿勢の確かめ方です。

三つがそろって、はじめて働く

断熱を上げても、気密が伴わなければ隙間から熱が逃げ、計画した換気も働きません。気密を上げても、換気が伴わなければ湿気がこもります。換気だけ立派でも、器が冷えていれば結露します。断熱・気密・換気。この三つは、揃ってはじめて意味を持ちます。どれかひとつの数字だけが突出している説明を聞いたときは、残りの二つがどうなっているかを尋ねてみてください。

また、同じ等級でも求められるUA値が地域で違う以上、目指すべき水準も地域で変わります。8地域(沖縄など)にいたっては等級7そのものが設定されていません。全国共通の正解はありません。

そして、やめ時について

私の考えをお伝えします。まず、いま義務になっている水準(等級4相当)を最低ラインとして確保する。2025年4月以降の新築なら、これは自動的に満たされます。

次に、2030年に向けて基準が引き上げられる予定であることを踏まえる。いま建てる家は、10年後には「最低ライン以下」になっている可能性があります。そこまで考えるなら、ZEH水準(断熱等級5)以上が一つの区切りになります。

そこから先は、暮らし方と地域と予算で決める。等級6を選ぶか7まで行くかは、前半で言葉にした「その食卓で何をしたいか」に照らして決めるものです。数字を上げること自体が目的になったら、順番が逆になっています。

この章で持ち帰っていただきたいのは、上げ止まりは自分で決めてよいということ。そのための材料は、ここまでで揃いました。

自分の家を知る

最後に、いちばん実際的な話をします。ご自分の家がいまどこにいるのかを確かめる方法です。

これから建てる方が、聞いておくとよいこと

住宅会社の担当者に、次のことを尋ねてみてください。専門用語で聞く必要はありません。

  • 断熱等性能等級はいくつですか。うちの地域では、それはUA値でいくつになりますか:等級だけでなく地域区分とセットで聞くのがこつです
  • 気密性能は測っていますか。測っているなら、実測の平均値はいくつですか:測定しているかどうかが第一。数値はその次です
  • 換気は何種で、熱交換はありますか:第1種か第3種か、そして給気口の位置
  • 夏の日射は、どう遮る計画ですか:庇、外付けの日よけ、ガラスの種類。方角ごとに聞けると理想です
  • 一次エネルギー消費量等級はいくつですか:器だけでなく設備まで含めた燃費です

答えられない、あるいははぐらかされたときは、それ自体が情報になります。責める必要はありませんが、判断の材料にはなります。

すでに建っている家を、調べる方法

上から順に、確実さが高い方法です。

  1. 住宅性能評価書を探す:家を買ったときの書類一式の中にあれば、断熱等性能等級がそのまま書かれています。長期優良住宅の認定通知書にも、性能の記載があるはずです
  2. 建てた年を確認する:登記簿や売買契約書、検査済証で分かります。2025年4月以降に工事に着手した家なら、省エネ基準への適合が担保されています。それ以前の家には、その保証がありません
  3. 建てた会社に問い合わせる:図面が残っていれば、UA値を計算してもらえる場合があります
  4. 窓を見る:書類がなくても、窓は正直です。サッシの枠が金属むき出しか、樹脂か。ガラスが1枚か、2枚重ねか。窓は、その家が建てられた時代の性能を、いちばんよく表しています
  5. 給気口があるか見る:壁に丸い給気口があり、換気扇が常時回っているなら、2003年7月以降の家である可能性が高いということです

なお、いまお住まいの家のC値は測らないかぎり分かりませんが、まずは上の1〜5で十分です。

住まいの性能を調べる5つの入り口
図:住まいの性能を調べる5つの入り口。上ほど確実で、下ほど手軽。

いま手を打てること── 効きやすい順番で

ここからは、いまの住まいのままできることです。効きやすい順に並べました。

  1. 窓に手を入れる:熱の出入りがいちばん大きいのが開口部です。内窓(二重窓)を足す。冬は、厚手のカーテンを床まで届く長さにして、上端の隙間を塞ぐ。足元の冷たい空気は窓で生まれているので、窓を手当てすると足元が変わります
  2. 夏の日射を、窓の外で止める:すだれ、外付けのシェード、シャッター。内側のカーテンだけでは日射熱の約6割が室内に入りますが、外側で遮れば約2割まで減ります(住まい方ガイド)。入ってくる熱が、3分の1になるということです
  3. 開放式の暖房器具を見直す:燃焼ガスと水蒸気を室内に出すタイプの暖房は、結露とカビの発生に関係することが調査で示されています(ただしこの調査は、エアコン暖房に替えた場合にどうなるかまでは検証していません)。水蒸気を室内に出さない暖房であれば、湿気の出方そのものが変わります
  4. 24時間換気を止めない。フィルターを掃除する:寒いからと止めてしまう方は少なくありませんが、これは空気質と湿気の両方を悪くします
  5. 温湿度計を、食卓の高さに置く:壁の高い位置ではなく、座ったときの高さに。相対湿度は40〜60%が目安とされています(住まい方ガイド)。測らないと、何が起きているのか分かりません
  6. サーキュレーターで、上下の温度差をならす:暖房時はエアコンの対角線上の部屋の隅に置き、真上に向ける。足元の冷気と天井付近の暖気をかき混ぜます(住まい方ガイド)
  7. 床に手を入れる:ラグや厚手のマットは、足の裏から奪われる熱を減らします。ただしこれは対症療法で、窓の手当てより効き目は小さいと考えてください

やりがちだけれど、逆効果になること

  • 加湿のしすぎ:乾燥が気になって加湿を強めると、窓や壁で結露します。湿度計を見ながら、40〜60%の範囲に収めるのが安全です
  • 寒いからと換気を止める:止めた瞬間、湿気と汚れた空気が家の中に残ります。寒さは給気口の位置や暖房の当て方で調整するほうが筋です
  • 室内干しを増やしすぎる:加湿の手立てとして挙げられることがありますが、量が過ぎれば湿気の発生源になります
  • 窓の内側だけで日射と戦う:内側では約6割が入ってきます。戦う場所を外に変えるほうが確実です

どこからは、諦めてよいか

いまの家の断熱等級そのものを大きく変えるのは、大がかりな工事になります。壁を開けて断熱材を入れ直す、外皮全体を包み直す── 思い立ってすぐできることではありません。そこを目指せない状況なら、無理に目指さなくてかまいません。

代わりに、窓と、暮らし方の運用でできるところまでやる。上の1〜7が、そのための順番です。それでも足りない部分は、次に住まいを選ぶときの判断材料として持っておく。いま全部を解決しなくてよいのです。

そして、いちばん大切なこと。足元が冷えるのも、窓が結露するのも、家の性能という土台の上で起きていることです。あなたの努力が足りないからではありません。できることをして、できないことは器の側の問題として切り分ける。それだけで、冬の朝の受け止め方が変わるはずです。

まとめ|性能とは、暮らしの余白のこと

最後に、持ち帰っていただきたいことを並べます。

言葉の意味を、こう覚えてください。UA値は、壁や窓を通って逃げる熱の逃げやすさ。小さいほど逃げにくく、ただし隙間や換気の分は入っていません。C値は隙間の量で、小さいほど隙間が少なく、実測でしか分かりません。ηAC値は夏の日射の入りやすさで、5〜7地域では断熱等級4から7まで同じ値です(1〜4地域には設定がありません)。

制度の現在地を、こう押さえてください。2025年4月から、新築は省エネ基準への適合が義務です。かつて最高等級だった等級4が、いまの最低ラインになりました。そして2030年に向けて、基準はさらに引き上げられる予定です。

三つで一組、と覚えてください。断熱・気密・換気。断熱を上げて換気が伴わなければ、湿気がこもることもあります。

上げ止まりは、自分で決めてください。最低ラインとして義務の水準を確保し、10年後を見るならZEH水準以上を一つの区切りにする。そこから先は、その食卓で何をしたいか、どの地域か、予算がどうかで決めるものです。

気密は、数字ではなく姿勢で見てください。国の基準がない以上、数値で線を引くことはできません。代わりに「測っていますか」と尋ねてください。

いまの家では、窓から手をつけてください。内窓、厚手のカーテン、そして夏は窓の外側で日射を止める。開放式の暖房を見直し、24時間換気を止めず、温湿度計を食卓の高さに置く。この順番で効きます。

そして、いちばんお伝えしたかったことを、もう一度書きます。性能とは、暮らしの余白のことです。

断熱性能が低い家では、住まい手の暮らし方が結果を大きく左右します。性能が高い家では、その影響が小さくなる── 全国調査の報告が示しているのは、そういう構図でした。性能の高い家は、あなたの代わりに少しだけ働いてくれる家です。

その余白は、次に住まいを選ぶときに増やせます。いまの家でも、窓と運用で少し広げられます。まず、ご自分の家がいまどこにいるのかを確かめるところから始めてみてください。

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出典

  • 国土交通省「住宅の品質確保の促進等に関する法律に基づく住宅性能表示制度におけるZEH水準を上回る等級について」 https://www.mlit.go.jp/common/001430097.pdf ※ 断熱等性能等級の地域区分別UA値、HEAT20 G1〜G3のUA値、等級6・7の設定根拠と6地域の削減率の試算値、ηAC値、8地域に等級7が設定されていないこと
  • 国土交通省「住宅性能表示制度の省エネ上位等級の創設」 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001424534.pdf ※ UA値の定義(換気による熱損失量を除く)、一次エネルギー消費量等級とBEI、ZEH水準の定義、断熱等性能等級に結露防止対策が含まれること
  • 国土交通省「建築基準法・建築物省エネ法 改正法制度説明資料」令和6年9月 https://www.mlit.go.jp/common/001627103.pdf ※ 2025年4月1日からの省エネ基準適合義務化、2030年・2050年の目標
  • 国土交通省「【建築物省エネ法第10条】省エネ基準適合義務の対象拡大について」 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/01.html
  • 国土交通省 資料2-2「住宅に係る省エネルギー判断基準の改正について」 https://www.mlit.go.jp/common/000030044.pdf ※ 平成21年の改正で気密性の定量的基準および換気量の確保に係る規定が削除されたこと、およびその理由
  • 国土交通省「建築基準法に基づくシックハウス対策について」 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_tk_000043.html ※ 2003年7月1日施行、住宅は換気回数0.5回/h以上
  • 一般社団法人 環境共生まちづくり協会(編集協力:国土交通省住宅局)「省エネ性能に優れた断熱性の高い住宅の設計ガイド」令和7年3月 https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001884522.pdf ※ 気密化の3つの目的、断熱と気密はセットで考える必要があること、HEAT20の目安C値0.7±0.2、気密性能は計算では求められず実測で確認すること。同ガイドは断熱等性能等級6・7の住宅を対象とした設計者向け資料
  • 一般社団法人 環境共生住宅推進協議会(編集協力:国土交通省住宅局)「省エネ性能に優れた断熱性の高い住宅を住みこなす 住まい方ガイド 〜高機能な住宅の性能を発揮させる25のポイント〜」令和6年3月 ※著者保管の一次資料。断熱性能が低い住宅で起きること、日射を内側で遮った場合と外側で遮った場合の比較(約60%と約20%)、冬の乾燥と加湿の注意、相対湿度40〜60%、24時間換気の常時運転とフィルターの手入れ、サーキュレーターの向き、少ない台数での暖冷房、災害時の維持。同ガイドは断熱等性能等級6以上の住宅を対象としたもの
  • 一般社団法人 日本サステナブル建築協会「住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査 第9回報告会」講演資料、2025年2月13日 ※著者保管の一次資料。日本の住宅ストックの断熱等級分布(国土交通省推計・令和元年度)、結露やカビと健康状態の関連、すまい方との関連。結露・カビの解析の有効分析対象はN=238名で、3群の内訳は「結露もカビのにおいもない」122名、「結露はあるがカビのにおいはない」90名、「カビのにおいがある」26名。調整オッズ比は、咳や痰で結露のみ1.81(95%CI 0.89–3.69)、カビのにおい2.90(0.96–8.77)、鼻汁で結露のみ1.80(0.86–3.73)、カビのにおい3.49(1.07–11.36)。統計的に有意だったのはカビのにおいと鼻汁の関連(p=0.04)のみで、他は信頼区間が1をまたぐ。資料は「悪影響を及ぼす可能性」と記載している。研究の限界として「エアコン暖房の使用による影響を考慮できない」「データ数が限られているため、窓以外の部位における結露の発生を考慮できない」が明記されている
  • 健康に暮らす住まいの設計ガイドマップ 〜生活環境病の予防にむけて〜 ※著者保管の一次資料。体感温度の考え方と2ケースの比較、降下冷気、断熱工法の分類、Low-Eガラスの日射取得型と日射遮蔽型、熱交換換気の全熱と顕熱、温度ムラと血圧変動。断熱性能ごとの効果の試算は、同資料の注記によりHEAT20の評価住宅G1〜G3のシナリオに基づく
  • Mendell MJ, Mirer AG, Cheung K, Tong M, Douwes J(2011)Respiratory and Allergic Health Effects of Dampness, Mold, and Dampness-Related Agents: A Review of the Epidemiologic Evidence. Environmental Health Perspectives 119(6):748–756. https://ehp.niehs.nih.gov/doi/10.1289/ehp.1002410 / 全文(PMC)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3114807/ ※ 2009年末までの査読付き疫学研究と定量的メタ分析のレビュー
  • Ginestet S, Aschan-Leygonie C, Bayeux T, Keirsbulck M(2020)Mould in indoor environments: The role of heating, ventilation and fuel poverty. A French perspective. Building and Environment 169:106577. https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0360132319307899 ※ フランスの食品・環境・労働衛生安全庁(ANSES)による室内カビの専門家評価に基づく整理
  • Du C, Li B, Yu W, Cai J, Wang L, Li X, Yao Y, Li B(2021)Evaluating the effect of building construction periods on household dampness/mold and childhood diseases corresponding to different energy efficiency design requirements. Indoor Air 31(2):541–556. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/ina.12723 ※ 中国での調査。2010年以降の建物では断熱の向上と空気交換率の低下により相対湿度が高くなり、カビ指数が増加したと報告されている。気候・工法が日本とは異なるため、そのまま適用できるものではない

※ 「窓から逃げる熱は全体の何%」という割合の数値は、本文では扱っていません。公表されている試算はありますが、想定した住宅の断熱性能によって割合が変わるにもかかわらず、一次資料の側に試算条件の記載を確認できなかったためです。


※ この記事でお伝えするのは、公的な基準ではなく、建築設計と作業療法の視点から見た「暮らしの目安」です。正解を押し付けるものではなく、あなたが自分の住まいを見つめ直すための判断材料としてお使いください。

この記事を書いた人

暮らしの困りごとを、住まいから解決する人。

「片付かない」「家事が大変」「子どもが集中しない」──そんな毎日の悩みを、住まいの工夫から考えます。

建築と作業療法の経験をもとに、住宅・家具・インテリア・照明・家電などを「暮らし」の視点で読み解き、毎日が少し心地よくなるヒントを発信しています。

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