夏の夕方、キッチンで火を使いながら汗をぬぐう。ふり返れば、食卓の家族は上着を羽織っている。冷房を強めると、こんどは別の誰かが「寒い」と言う。── ダイニングの温度をめぐる、そんな小さなすれ違い。心当たりはありませんか。
エアコンは動いている。設定温度も間違っていない。壁の温度計も、おかしな数字は出していない。それなのに、体は「暑い」「寒い」と言い続ける。数字は正しいのに、体が納得していない。この気持ち悪さが、ダイニングの温度の一番やっかいなところです。
家づくりの情報を探すと、出てくるのは足元用のヒーターのランキングか、吹き抜けを布で塞ぐ方法か、エアコンの買い替えの話です。もちろん、どれも間違いではありません。でも、それらはすべて「部屋をどうするか」の話。あなたが座っている、その席の話は、ほとんど誰もしてくれないのです。
私は住宅設計の経験を経て、現在は作業療法士として活動しています。建築の視点で「器としての住まい」を、作業療法の視点で「そこで人が何をして、どれだけの時間を過ごすか」を、両方見てきました。訪問の仕事で家に上がるたびに感じるのは── 温度の悩みは、部屋の広さより、その人が座っている場所と、していることで決まるということです。
この記事では、ダイニングの温度を「体感の仕組み・席の位置・家族ごとの感じ方・間取りとの相性」という4つの目安から見つめ直します。難しい設備の話ではありません。今日の夕食の時間、あなたの食卓で何が起きているのかを、一緒に読み解いていく記事です。
近年の研究で、床の近くの寒さが健康と結びついていることが分かってきました。同じ部屋の中にある温度のムラが、「寒い」という感覚と深く結びついていることも見えてきています。それを知ると、我慢していたことの多くが、我慢しなくてよかったものだと気づけるはずです。
読み終えたとき、「なんとなく暑い・寒い」というぼんやりした不快感が、「うちはここを整えればいい」というはっきりした判断材料に変わっているはずです。新しい家を考えている方にも、いまの建売や賃貸のままできる工夫を探している方にも、持ち帰れるものがあります。
正解はひとつではありません。あなたの家族が、食卓でどんな時間を過ごしたいか。それに住まいの温度がかみ合っているか。それだけが問いです。
この記事を読むと得られること
- 「エアコンは効いているのに暑い・寒い」の正体が、体感温度の仕組みから分かる
- 足元の寒さが、我慢や冷え性の問題ではなく「測れる現象」だと分かる
- 家族の中で暑い・寒いが割れる理由が分かり、リモコンをめぐる小さな争いが終わる
- 吹き抜けやつながったLDKを「つなげる」か「仕切る」か、判断のものさしが手に入る
- 夏と冬、それぞれの食卓で今日からできる工夫が具体的に分かる
もしかして、こんなことありませんか

ダイニングの温度をめぐるモヤモヤは、毎日のいろいろな場面に潜んでいます。当てはまるものがないか、見てみてください。
設定温度は合っているのに、足元だけが冷たい
冬の夜。エアコンは22℃で動いていて、部屋の温度計も21℃を指している。なのに、椅子に座って30分もすると足首から冷えてくる。「私が冷え性なのかな」と、自分の体のほうを疑ってしまう。
→ 疑うべきは、あなたの体ではありません。温度計が置かれている高さと、あなたの足がある高さが違うだけかもしれません。
台所に立つ人と、食卓に座る人で、言うことが違う
夕食の準備中。火を使っている自分は汗だくなのに、食卓の家族は「ちょっと寒くない?」と上着を羽織る。同じ部屋にいるのに、まるで別の季節にいるようです。
→ これは気持ちのすれ違いではありません。していることが違えば、体が作る熱の量が違う。それだけのことです。
リモコンが、家族の小さな交渉ごとになっている
誰かが下げれば誰かが寒がり、上げれば誰かが暑がる。毎日、数字をめぐって小さな譲り合いが起きる。結局いつも、同じ人が我慢している。
→ 我慢比べになるのは、一つの数字で全員を満足させようとしているからかもしれません。
夏、冷房を強くしても食卓だけが暑い
窓から西日が差し込む夕方。設定温度を下げても、食卓のあたりだけ暑さが引かない。下げ続ければ電気代が気になるし、家族には「寒い」と言われる。
→ 暑さの原因が空気ではなく、窓から入ってくる熱と、壁や床の表面にあるとしたら、設定温度をいくら下げても届きません。
1つでも当てはまったなら、原因はあなたの体質でも、設定の下手さでも、家族のわがままでもありません。住まいと暮らしのかみ合わせが、まだ揃っていないだけかもしれません。
温度を考える前に──あなたはダイニングで、どんな時間を過ごしたいですか

具体的な話に入る前に、少しだけ立ち止まってください。温度の話は、つい「何℃が正しいか」に飛びつきたくなります。でも、その前に決めておきたいことがあります。
大切なこと。あなたにとって、食卓の時間で一番大事にしたいことは何でしょうか。家族がそろって話すことでしょうか。子どもが落ち着いて食べられることでしょうか。それとも、一日の終わりに一人でほっとする時間でしょうか。
なぜ・何を。ダイニングで、あなたは何をしていますか。食事だけではないはずです。子どもの宿題を見る。書類を広げる。コーヒーを飲みながらスマホを見る。その「何をしているか」が、実は快適な温度を決めています。
いつ・誰と。朝の15分と、夜の1時間半では、必要な温度は違います。一人でいる昼と、家族4人が集まる夕方でも違います。誰が、どの席に、どれくらいの時間座っているか。ここを思い出してみてください。
意味。その観点から見たとき、あなたにとってダイニングはどんな場所でしょうか。急いで食べて立ち去る場所なのか、腰を落ち着けて長くとどまる場所なのか。長くとどまる場所ほど、温度の影響は大きくなります。
環境。そして今、その願いに沿った環境になっているでしょうか。エアコンの風は、家族が座る席に届いていますか。西日の入る時間帯に、誰かがその方向を向いて座っていませんか。
この棚卸しをしてから読み進めると、これから出てくる数字が「守るべき決まり」ではなく「自分の暮らしを測るものさし」に変わります。次の章から、その仕組みを順に解いていきます。
エアコンは効いているのに、なぜ暑い・寒いのか

先ほど棚卸しした「大切にしたい時間」を頭の隅に置きながら、まず一番の謎から解いていきましょう。設定温度は合っているのに、体は納得しない。この矛盾の正体です。
答えは、私たちが感じている温度が、空気の温度だけで決まっていないことにあります。
体は、空気と「表面」の両方を感じている
国が編集に協力した住まい方の公的なガイドは、体感温度をこう示しています(環境共生住宅推進協議会「省エネ性能に優れた断熱性の高い住宅を住みこなす 住まい方ガイド」、2024)。
体感温度 ≒(空気温度 + 平均放射温度)÷ 2
平均放射温度(へいきんほうしゃおんど)とは、壁・窓・床・天井といった、あなたを取り囲む面の温度をならしたものです。人の体は、空気から熱を受け取るだけでなく、冷たい面に向かって自分の熱を放り出している。だから、同じ空気の温度でも、まわりの面が冷たければ体は寒いと感じます。
住まいの設計資料には、こんな計算例が載っています(健康に暮らす住まいの設計ガイドマップ)。
| 家の状態 | 空気の温度 | 壁・窓・床の表面温度 | 体感 |
|---|---|---|---|
| 壁や窓が冷えている家 | 20℃ | 10℃ | 約15℃ |
| 壁や窓も暖かい家 | 20℃ | 20℃ | 約20℃ |
同じ「室温20℃の部屋」なのに、体感は15℃にも20℃にもなる。これが「エアコンは効いているのに寒い」の答えです。あなたの温度計は嘘をついていません。ただ、温度計は空気しか測っていないのです。

冬の寒さには4つの入口がある
設計ガイドマップは、冬に寒さを感じる原因を4つに整理しています。
- 熱が逃げる:窓や壁から、部屋の熱が外へ出ていく
- 冷たい面から冷やされる:冷えた窓や壁に向かって、体の熱が奪われる
- 冷気が降りてくる:窓で冷やされた空気が重くなって床を這う(降下冷気、コールドドラフト)
- 暖気が上に溜まる:暖かい空気は軽いので上がり、頭のあたりだけ暖まる
住まい方ガイドは、この最後の状態を「頭熱足寒」と呼んでいます。頭は暖かいのに、足が暖まらない。まさに、食卓で起きていることです。
夏の暑さも、同じ理屈で説明できる
夏は逆向きに同じことが起きます。屋根や外壁が日射で熱をため込み、その熱がじわじわと室内側の面を温める。設計ガイドマップはこれを「焼け込み」と表現しています。天井や壁の表面が熱を持てば、空気を冷やしても体感は下がりきりません。
つまり、夏の暑さも冬の寒さも、原因は同じ4つのかみ合わせ── 断熱、放射(面の温度)、気流、そして間取り。季節が変われば、向きが変わるだけです。
表にすると、こうなります。この先を読むときの地図として使ってください。
| 4つの要素 | 冬に起きること | 夏に起きること |
|---|---|---|
| 断熱 | 熱が外へ逃げていく | 熱が中へ入ってくる |
| 放射 | 冷えた面に、体の熱を奪われる | 焼けた面に、体を温められる |
| 気流 | 冷気が床を這って足元に来る | 冷えた空気が席まで届かない |
| 間取り | 暖気が吹き抜けを上っていく | 冷気が広い空間に広がりきらない |
左の列と右の列は、同じ現象の裏表です。片方が分かれば、もう片方も分かります。
ここから先の4つの目安は、この4要素を順にほどいていくものだと思って読んでください。それぞれの章のはじめに、その章が主にどちらの季節の話なのかを添えておきます。
目安① 温度と健康──18℃という世界の目安と、夏に上限の数字がない理由

この章は、冬の話から始めて、後半で夏に移ります。
まず、温度がどれくらい健康に関わるのかを見ておきましょう。
冬には、世界共通の目安がある
世界保健機関(WHO)は2018年の住宅と健康に関するガイドラインで、冬の室内の最低温度として18℃という数字を示しています。これは同ガイドラインの中で「強い勧告」に位置づけられているもので、「住まいを暖めることに健康上の意味がある」という点についての根拠の確実性も「高い」と評価されました。さらに、高齢の方、子ども、持病のある方(とくに心臓や呼吸器の病気)については、18℃より高い最低温度が必要になる場合がある、とも書かれています。
ここで大事なのは、これが「守らないといけない決まり」ではなく、世界が共有している一つの目安だということです。
日本の食卓の、正直な実態
では日本の家はどうでしょうか。全国47都道府県の2,190住宅で、冬に2週間の実測をした調査があります(Umishioら、Indoor Air、2020)。
- 在宅中の平均室温は、居間16.8℃、脱衣所13.0℃、寝室(就寝中)12.8℃
- 居間の最低室温が18℃を下回った世帯は9割を超えた
- 地域差は最大6.7℃(もっとも暖かい北海道19.8℃、もっとも寒い香川13.1℃)
北海道がもっとも暖かいことに、驚かれたかもしれません。寒い地域ほど、住まいの断熱と暖房の備えが行き届いているということです。寒さは外の気温ではなく、住まいの性能で決まる。この調査は、それを裏側から示しています。
そして、この調査でもう一つ報告されていることがあります。こたつの使用や着衣量の多さが、室温の低い住宅と関連していた。つまり日本人は、寒さを住まいの性能ではなく、着るものと暖房器具で吸収してきたわけです。
ダイニングの足元にヒーターを置きたくなる気持ちは、あなただけのものではありません。日本中の食卓で、同じことが起きているのです。
夏には、実は「上限の数字」がない
ここは正直にお伝えしたいところです。同じWHOのガイドラインは、夏について「守るべき上限の室温」を勧告していません。高温についての勧告は「条件付き」とされ、根拠の確実性も低いと評価されています。
ただし、手がかりがまったくないわけではありません。このガイドラインは、検証の区切りとして24℃という値を使っています。「健康で座って過ごしている人なら、18〜24℃の範囲で健康への害は認められない」という以前からの整理に基づくものです。そのうえで、高齢の方・乳児・病気のある方の住まいは「許容できる上限の温度」を下回るように保つことがとくに大切だとしています。都市ごとの上限の試算例も付属の資料にありますが、日本の都市は含まれていません。
つまり、冬の18℃のように「世界共通の一本の線」が、夏にはまだ引かれていない。それが正確なところです。
では夏はどう考えればいいのか。WHOが挙げているのは、数字ではなく方法のほうです。断熱、建物の向き、窓の日よけ、緑、そして夜の涼しい空気を使った換気。夏は「何℃にするか」ではなく、「熱をどう入れないか」で考える── これが、数字のない季節の向き合い方です。
その一方で、夏の室内には見過ごせない現実もあります。東京都監察医務院がまとめた令和6年夏の確定値によると、東京23区で熱中症により亡くなった306人のうち、屋内が291人=95.1%でした。さらに屋内で亡くなった方のうち、エアコンがあるのに使っていなかった方が185人=63.6%を占めています。
つまり、あなたの家では── 夏の夕方、暑さを感じながら「もう少し我慢しよう」と思ったとき、その我慢は健康を守る側ではなく、削る側に働いているかもしれません。冷房は贅沢ではなく、道具です。
もう一つ、お伝えしておきたいことがあります。「暑いのを我慢するか、電気代を取るか」という二択は、実は選ばなくていいものです。エアコンは設定温度に届くまでにいちばん電力を使うので、家にいるあいだは、こまめに消すよりつけたままにして、そのうえで熱を入れない工夫を足すほうが軽く済みます。つまり、削るべきなのは我慢でも冷房でもなく、入ってくる熱のほうです。具体的なやり方は、この記事の終わりにまとめました。
目安② 席の温度──温度計は、あなたの頭の高さしか測っていない

この章も、前半が冬、後半が夏です。どちらも「席」の話です。
ここからが、この記事の一番お伝えしたいところです。
足元の寒さは、気のせいではない
日本サステナブル建築協会が国土交通省・厚生労働省の協力のもとまとめた資料に、はっとするデータがあります(「省エネで健康快適な住まいづくりを」)。
床上1mは16℃以上あるのに、床の近くだけが15℃未満という住宅に住む人(889人)は、床の近くも15℃以上ある住宅の人(888人)に比べて、次のような差が報告されています。
- 高血圧で通院している人が1.51倍
- 糖尿病で通院している人が1.64倍
そして、この図には小さな注記が添えられています。「床上1m付近の室温は同程度」。
もう一度読んでみてください。床上1メートル、つまり座ったときの上半身あたりの温度は、どちらのグループも同じだったのです。温度計の上では同じような家に見えていて、違っていたのは床の近くだけ。そこに健康の差が重なっていた。
ひとつだけ、正直に添えておきます。同じ調査には、床上1mも16℃を下回る「家全体が寒いグループ」もあり、そちらでは糖尿病の数値は上がっていませんでした。寒くなるほど一直線に増える、という単純な話ではないのです(高血圧は、どちらの寒いグループでも同じように高い数値が出ています)。ここでお伝えしたいのは病気の名前ではなく、「上半身の温度が同じでも、足元の温度で差がつくことがある」という一点です。
これは、まさに「エアコンの温度計は正常なのに、足元だけ寒い」という、あの状態そのもののデータです。あなたの家の温度計は嘘をついていません。ただ、あなたの頭の高さを測っているだけなのです。
「同じ部屋の中の上下差」が、寒さの自覚と結びついていた
もう一つ、規模の大きな研究があります。全国1,553住宅で、複数の部屋・複数の高さ(床の近くと床上1m)を2週間実測し、2,793名の「寒いと感じるか」と突き合わせた調査です(Umishioら、Environment International、2024)。
測られた温度差は、こうなっていました。
| 何と何の差か | 平均 |
|---|---|
| 居間の上下の温度差(床の近くと床上1m) | 3.1℃(北海道では最大5.1℃) |
| 居間と脱衣所の温度差 | 3.8℃ |
| 居間と寝室の温度差 | 4.1℃ |
| 居間の朝と夕方の温度差 | 3.0℃ |
そして結論です。平均室温と「上下の温度差」だけが、人の寒さの自覚と統計的にはっきり結びついていた。部屋と部屋の水平の温度差や、時間による温度差には、有意な関連が見られませんでした。
これが何を意味するか。「隣の部屋が寒いこと」より、「いま座っているその席の、足元と頭の差」のほうが、寒さの自覚と強く結びついていたということです。ダイニングという一つの部屋の中で起きていることが、まさに問題の中心にあったわけです。
ひとつ補っておきます。これは同じ時期の温度と自覚を突き合わせた調査なので、「上下差が寒さを生んでいる」という因果までを示したものではありません。ただ、探すべき場所が「隣の部屋」ではなく「その席の足元」だと分かる。それだけでも、打つ手はずいぶん変わります。
世界のものさしと、日本の平均
国際的な温熱の規格である ISO 7730 は、部屋全体が快適でも人が不快になる要因を4つ挙げています。気流(ドラフト)、頭と足首の上下温度差、床が冷たすぎる・暖かすぎること、そして放射温度のかたより。この規格が想定しているのは「軽い活動をして座っている人」── まさに食卓の私たちです。
この規格の附属書には、「軽い、主に座ったままの活動」を想定した推奨条件として、床上1.1mと0.1m(頭と足首の高さ)の上下温度差は3℃未満という一行があります。しかも冬の条件と夏の条件の両方に、同じ3℃が書かれています。この範囲に収まっていれば、上下差による不快を感じる人は5%未満にとどまる、という考え方です。
先ほどの日本の居間の平均は、3.1℃でした。日本の平均的な居間は、国際的な快適の目安の、ぎりぎり外側にいることになります。
ただし、この2つの数字は厳密には同じ土俵ではありません。規格の3℃はある時点の設計上の上限(床上1.1mと0.1mの差)で、日本の3.1℃は2週間の平均(床上1mと床近傍の差)です。測った高さも、時間の性質も違います。それでも、同じくらいの大きさの数字が並んでいるという事実は、目安として十分に意味があります。
夏は、同じことが逆向きに起きる
ここまでは冬の話でした。では夏はどうでしょうか。
冷たい空気は重いので、下に溜まります。冬に暖気が天井へ上っていったのと、ちょうど逆です。だから夏の食卓では、上半身は暑いのに、足首だけが冷えているという、ねじれた状態が起きます。冷房をつけているのに肩のあたりは暑く、それでいて足先は冷たい。心当たりがあるかもしれません。
さらに夏は、席による差がはっきり出ます。エアコンの風がまっすぐ届く席と、家具や壁に遮られて届かない席。そして西日が入る時間帯に、窓のほうを向いて座る席。窓や壁の表面が日射で熱を持っていれば、先ほどの体感温度の式のとおり、空気だけを冷やしても体感は下がりきりません。
冬は暖気が上へ逃げ、夏は冷気が下に溜まる。向きは逆でも、起きていることは同じです。
つまり、あなたの家では── 冬の足元の寒さも、夏の席ごとのばらつきも、我慢が足りないのでも体質でもなく、温度計を2か所に置けば見えてくる現象です。感覚の言い合いを、数値の話に変えられる。ここが分かれ道です。
なお、天井の高さが上下の温度差に効いてくる仕組みについては、いずれ別の記事で詳しく扱います。
目安③ 人の温度──同じ食卓で、家族が違う温度を感じている

この章の話は、夏でも冬でも同じように起きます。
席の高さの話の次は、そこに座っている「人」の話です。ここは、私が作業療法の仕事でいちばん強く感じてきたところでもあります。
していることが違えば、感じる温度も違う
先ほどの住まい方ガイドに、こんな一文があります。
同じ室温でも、活動量が多い子供や調理で火を扱う人は暑く感じることもある
そして、こう続きます。「個人差を暖冷房などの設備機器だけで調整するのは難しい」。
国が編集に協力した公的な文書が、はっきり書いているのです。リモコンの数字ひとつで家族全員を満足させることは、そもそもできないと。
考えてみれば当たり前のことです。台所で火を使っている人は、熱源のそばで体も動かしている。走り回っていた子どもは、体の中で熱を作り続けている。そして食卓の椅子に座っている人は、ほとんど動いていない。同じ部屋の同じ時刻に、3人が3つの違う体温の作り方をしている。
作業療法では、人と環境と「していること」の三つのかみ合わせで暮らしを見ます。温度はまさにその典型で、環境(室温)が同じでも、していること(作業)が違えば、体験はまったく別のものになるのです。
夕食の時間帯は、この差がもっとも大きくなります。住まい方ガイドは、団らんや調理、夕食といった家族が集まる活動そのものが「内部発熱」として部屋を暖める効果に触れています。ダイニングは、家の中でもっとも人の熱が集まる場所なのです。
感じ方の差は、年齢でも生まれる
もう一つ、見落とされやすい差があります。先ほどの2024年の調査と設計資料の両方が、同じことを報告しています。高齢の方は、寒さを自覚しにくい。それなのに、低い温度による健康への影響は受けやすい。
これは、ちょっと怖い組み合わせです。「寒くない」と本人が言っているのに、体は負担を受けている。実家に帰ったとき、親御さんが「別に寒くないよ」と言うのを、そのまま信じてよいとは限らないということです。
だからこそ、「感じる」だけを判断材料にしないことが大事になります。住まい方ガイドも、温湿度計を置くこと、そしてエアコンから離れた場所の温度も確かめることを勧めています。エアコンは本体のセンサーで温度を測っているので、本体の近くと、あなたの席とでは、違う温度になっていて当たり前なのです。
家族で割れるのは、わがままではない
ここまでをつなげると、こうなります。
席の高さが違う → 温度が違う。していることが違う → 作る熱が違う。年齢が違う → 感じ方が違う。
だから、同じ食卓で違うことを言うのは、当然のことなのです。誰もわがままではありません。一つの数字で全員を満たそうとしていたことのほうに、無理があっただけです。
そう分かると、やることが変わります。全員が納得する設定温度を探すのをやめて、風の当たり方を変える、席を入れ替える、足元だけを補うという方向に切り替えられる。争いが、調整に変わります。
なお、椅子や座る位置そのものの考え方は、いずれ別の記事でも扱います。
目安④ 間取りと空調のかみ合わせ──つなげるか、仕切るか

この章は、夏と冬の両方に効いてきます。
最後の目安は、間取りの話です。ここには、私自身の実家で毎年くり返されている悩みが重なります。
実家の食卓で起きていること
私の実家のダイニングは、リビングと仏間、そして吹き抜けとつながっています。開放感があって、家族の気配がよく伝わる、いい空間です。ただ、エアコン1台では、どうしても効きが追いつかない。夏は冷気が広がりきらず、冬は暖気が吹き抜けを上っていってしまう。
同じ悩みを抱えている家は、たくさんあると思います。そして情報を探すと、まったく逆のことを言う2つの答えに出会うはずです。
正反対の2つの答えは、どちらも正しい
- 「つなげる」派:ドアや欄間をできるだけ開けて、家全体を一つのつながった空間として空調する。そのほうが部屋ごとの温度差が縮み、健康への負担も減る(住まい方ガイド、設計ガイドマップ)
- 「仕切る」派:吹き抜けをロールスクリーンやカーテンで塞ぎ、暖気の逃げ場を限定する(住宅会社の情報記事に多く見られる考え方)
正反対に見えますが、どちらも間違っていません。前提にしている住まいの性能が違うだけです。
「つなげる」は、断熱の性能が十分にあることを前提にした考え方です。器の保温力があるから、広くつなげても温度が保てる。一方「仕切る」は、性能が追いついていない住まいでの、現実的な緩め方です。逃げていく熱を、範囲を狭めて食い止める。
つまり、つなげるか仕切るかは、好みの問題ではなく、いまの住まいの性能で答えが変わるのです。この前提を説明しないまま「吹き抜けは寒い」「いや大丈夫」と論じても、話は噛み合いません。
判断のものさし
設計ガイドマップには、断熱性能ごとの冬の最低体感温度の目安が示されています(本州の温暖な地域を想定した試算)。住宅のカタログや広告に出てくる「断熱等級」との対応も、あわせて添えておきます。
| 断熱性能(UA値) | 冬の最低体感温度 | 15℃未満になる床面積の割合 | 暖房に必要な熱量 |
|---|---|---|---|
| 0.87(等級4=省エネ基準) | 概ね8℃ | 約30% | 100% |
| 0.56 | 概ね10℃ | 約15% | 約60% |
| 0.46(等級6の基準値と同じ) | 概ね13℃ | 約10% | 約45% |
| 0.26(等級7の基準値と同じ) | 概ね15℃ | 2%未満 | 約25% |
※ 本州の温暖な地域(地域区分6)を想定した試算で、4段階はいずれも民間の高断熱基準「HEAT20」のG1〜G3と省エネ基準に対応します。お住まいの地域によって数値は変わります。
※ この表の並びは「等級の基準値」ではありません。地域区分6の等級の基準値は、等級4が0.87/等級5が0.60/等級6が0.46/等級7が0.26です(国土交通省)。表の2行目の0.56はHEAT20 G1の値で、等級で言えば等級5と等級6のあいだにあたります。
UA値(ユーエーち)は、住まいから熱がどれだけ逃げやすいかを表す数字です。小さいほど、熱が逃げにくいという意味になります。右端の列を見ると、暖房に必要な熱量も、いちばん上を100%としたときに0.46で約45%、0.26で約25%まで下がっています。つまり寒い時間が減るだけでなく、暖房そのものの負担も軽くなるわけです。
性能が上がるほど、寒い時間そのものが減っていく。吹き抜けやつながったLDKに憧れがあるなら、まず確かめたいのは「寒くないですか」ではなく「この性能で、この広さを一つの空間として扱えますか」です。等級は、家を建てる会社に聞けば答えてもらえる数字です。
いま住んでいる家の等級が分からなくても、心配はいりません。このあとお伝えする「食卓の2か所で測る」だけで、あなたの家の実力は十分に見えてきます。
エアコン選びにも同じ話があります。住まい方ガイドは、カタログの適用畳数が断熱性の低い木造住宅を想定したものであり、断熱性の高い住宅なら目安の約2倍の広さまで対応できると説明しています。「広いから大きいエアコンを」ではなく、「この器なら、この1台で足りるのか」という問いに変わるのです。
そして、つなげて使う場合には、空気の通り道を計画することが欠かせません。設計ガイドマップは、ドアの下のすきま(アンダーカット)や欄間といった経路を意識的に設けるよう書いています。1台で家中をまかなうなら、扉を開けて家全体を一つの空間として扱う。空気が通れなければ、能力があっても届かないのです。
実家の場合、答えは「エアコンをもう1台」ではないのだろうと、私は思っています。器の性能と、空気の経路と、家族が座る席── そのかみ合わせを一つずつ確かめるほうが先です。
今日からできること──夏の食卓、冬の食卓

ここまでの4つの目安を、季節ごとの具体的な行動に落とします。大がかりな工事の前に、できることがかなりあります。
まず、測ってみる(季節を問わず)
いちばん最初にやってほしいのは、食卓の2か所で温度を測ることです。
- 座ったときの上半身くらいの高さ(床上1mあたり)
- 足元、床の近く
温湿度計を移動させて、時間をおいて2回測るだけで構いません。この2つの差が大きければ、それは器具の問題ではなく、空気の流れの問題です。感覚の言い合いが、共有できる数値に変わります。
夏の食卓でできること
以下のうち日射の遮り方・連続運転・湿度の3つは、住まい方ガイドが挙げているポイントです。
- 窓の外側で日射を遮る:カーテンなど窓の内側で遮った場合、日射熱の約60%が室内に入ります。すだれやシェードなど外側で遮れば約20%まで減ります。内側で戦うより、外側で止めるほうが圧倒的に効きます
- 西向きの窓には特に注意する:夕方の太陽は高度が低く、庇(ひさし)だけでは西日を防ぎきれません。夕食の時間と重なるので、食卓には直接効いてきます
- 設定温度を下げるより、連続で運転する:エアコンは設定温度に到達するまでにもっとも電力を使います。在宅中は風量「自動」で連続運転が基本です。下げ続けるより、熱を入れないほうが負担は軽くなります
- サーキュレーターはエアコンと同じ向きに:下に溜まった冷気をかき混ぜます
- 湿度を40〜60%に:同じ温度でも、湿度が下がれば体感は変わります。ウイルスや菌の面から見ても、健康に過ごせるのはこの範囲です
- そして、我慢しない:先ほどの東京23区の確定値を思い出してください。エアコンがあるのに使わなかった方が、屋内で亡くなった方の6割を超えていました
冬の食卓でできること
- カーテンで冷気の道をふさぐ:住まい方ガイドは具体的です。カーテンレールを天井面または梁の下面に付ける、カーテンボックスを設ける、掃き出し窓は床まで届く長さにする、レールの端を壁側に直角に折り曲げる(リターン方式)。窓辺で冷やされた空気が、床を這って食卓に届くのを止める工夫です
- サーキュレーターはエアコンの対角の隅に、真上向きで:人に風を当てず、足元の冷気だまりと天井の暖気を混ぜます。これが上下の温度差を縮めます
- 足元を直接支える:ラグやスリッパで床からの冷えを断つ。器具に頼ることを否定はしません。ただ、上下差を測ったうえで使うのと、我慢の代わりに使うのとでは、意味が違います
- 席を見直す:窓際の席、エアコンの風が直接当たる席、吹き抜けの真下の席。家族の中でいちばん寒がりの人が、いちばん不利な席に座っていないかを一度確かめてみてください
窓の配置と方角の考え方はダイニングの窓、家族の健康を変える3つの目安もあわせてどうぞ。
温度は、食べることや考えることにも触れている
最後に、まだ研究の途上にある話を一つだけ。いずれも参加者の少ない小規模な研究ですが、室温が食事の量や頭の働きに関わる可能性が報告されています。
熱波の時期に冷房のない建物で過ごした若い成人では、冷房のある建物の人に比べて、色と文字を見分ける課題の反応時間が13.4%遅くなったという報告があります(Cedeño Laurentら、PLOS Medicine、2018/44名を追跡した観察研究)。一方で、19〜20℃と26〜27℃を比べた女性25名の試験では、暖かいほうが快適だと答えた人が多く、摂取カロリーは少なかったという報告もあります(Richardsonら、Obesity、2018)。
一見矛盾するようですが、比べている相手が違います。前者は「暑すぎ」との比較、後者は「涼しめの室温」との比較です。暑すぎにも涼しすぎにも不利があり、心地よさの幅は思っているより狭い── そう読むのが妥当でしょう。前者は観察研究、後者は試験段階の小さな試験であり、どちらも人数が少ないことには留意が必要です。
ダイニングは食べるだけの場所ではありません。宿題を見て、書類を広げ、話をする場所でもある。温度は、その時間の質に静かに触れているのかもしれません。
まとめ|温度は、器具ではなく席から考える

長くなったので、4つの目安を振り返ります。
- 目安①:冬には18℃という世界の目安がある。夏は守るべき上限が勧告されていないので、「何℃にするか」ではなく「熱をどう入れないか」で考える
- 目安②:あなたの温度計は嘘をついていない。ただ、頭の高さを測っているだけ。足元との差を測れば、我慢は数値に変わる
- 目安③:していること、年齢、席の位置が違えば、感じる温度は違う。一つの数字で全員を満たそうとしたことに、無理があった
- 目安④:つなげるか仕切るかは好みではなく、住まいの性能で答えが変わる
そして全体を貫いているのは、たった一つの見方の切り替えです。部屋の温度ではなく、席の温度から考える。
エアコンの数字も、部屋の広さも、大切な情報です。でも、そこで暮らしているのは「部屋」ではありません。その席に座って、その時間、その人が過ごしているのです。
食卓が暑いのも寒いのも、あなたの体質や我慢の足りなさや、家族のわがままのせいではありません。器と暮らしのかみ合わせが、まだ揃っていないだけです。そして、かみ合わせは、測って、確かめて、少しずつ揃えていけます。
今夜の食事のとき、少しだけ意識してみてください。誰がどの席に座っていて、その人はさっきまで何をしていたか。そこから見えてくるものが、たぶん一番確かな判断材料です。
もっと深く知りたい人へ
温度の話は、窓の方角や日射の入り方と切り離せません。窓から入ってくる熱をどう扱うかについては、ダイニングの窓、家族の健康を変える3つの目安で詳しく扱っています。この記事でお伝えした「表面の温度」がいちばん強く効いてくるのも、窓です。
天井の高さと上下の温度差、床材と足元の冷え、部屋と部屋の温度差── このあたりは、今後の記事で順に扱っていきます。
出典
- World Health Organization(2018)WHO Housing and Health Guidelines. 低室温と断熱の章(勧告本文・18℃・脆弱層) https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK535294/ / 高室温の章 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK535285/ / 低室温の影響に関するシステマティックレビュー報告 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK535290/
- Umishio W, Ikaga T, Fujino Y, ら(2020)Disparities of indoor temperature in winter: A cross-sectional analysis of the Nationwide Smart Wellness Housing Survey in Japan. Indoor Air. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/ina.12708
- Umishio W, ら(2024)Spatial and temporal indoor temperature differences at home and perceived coldness in winter: A cross-sectional analysis of the nationwide Smart Wellness Housing survey in Japan. Environment International, 186:108630. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0160412024002162
- Cedeño Laurent JG, Williams A, Oulhote Y, ら(2018)Reduced cognitive function during a heat wave among residents of non-air-conditioned buildings. PLOS Medicine 15(7): e1002605. https://journals.plos.org/plosmedicine/article?id=10.1371/journal.pmed.1002605
- Richardson MB, Li P, Gohlke JM, Allison DB(2018)Effects of indoor thermal environment on human food intake, productivity, and comfort: pilot randomized crossover trial. Obesity. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6580845/
- ISO 7730 Ergonomics of the thermal environment(局所不快感の4要因/上下温度差3℃未満)※ 上下温度差の値は同規格 附属書A「軽い、主に座位の活動」の推奨条件(床上1.1mと0.1mの差/冬・夏の両条件)として規定されているもの。1984年版の公開プレビューで原文を確認した。その後改訂されており、規格本体は有償のため最新版は未確認
- 東京都監察医務院「令和6年夏の熱中症死亡者数の状況【東京都23区(確定値)】」 https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/shisetsu/jigyosyo/kansatsu/heatstroke/r06-heatstroke
- 一般社団法人 環境共生住宅推進協議会(編集協力:国土交通省住宅局)「省エネ性能に優れた断熱性の高い住宅を住みこなす 住まい方ガイド 〜高機能な住宅の性能を発揮させる25のポイント〜」令和6年3月 ※ 同ガイドは断熱等性能等級6以上の住宅を対象としたもの
- 一般社団法人 日本サステナブル建築協会(協力:国土交通省・厚生労働省)「省エネで健康快適な住まいづくりを」※スマートウェルネス住宅等推進調査事業に基づく。調査詳細 https://www.mlit.go.jp/report/press/house07_hh_000198.html / 通院者の調整オッズ比と3群の定義・人数は同事業の中間報告(第3回)別紙2 p.8 表5 https://www.mlit.go.jp/common/001270049.pdf
- 健康に暮らす住まいの設計ガイドマップ 〜生活環境病の予防にむけて〜(断熱性能・工法・熱環境設計/安全設計・室内環境)※著者保管の一次資料。断熱性能ごとの効果の試算は、同資料の注記によりHEAT20の評価住宅G1〜G3のシナリオに基づく
- 国土交通省「住宅の品質確保の促進等に関する法律に基づく住宅性能表示制度におけるZEH水準を上回る等級について」 https://www.mlit.go.jp/common/001430097.pdf ※ 断熱等性能等級の基準値(地域区分6)およびHEAT20 G1〜G3のUA値は、この資料で確認した
※ この記事でお伝えするのは、公的な基準ではなく、建築設計と作業療法の視点から見た「暮らしの目安」です。正解を押し付けるものではなく、あなたが自分の住まいを見つめ直すための判断材料としてお使いください。

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