ダイニングで疲れるのはなぜ|6つの環境から見直す目安

ダイニングで疲れる理由を、6つの環境から見直す記事のアイキャッチ

夜、子どもを寝かしつけて、ようやくダイニングに戻ってくる。片付いたテーブルでお茶を飲みながら、ふと思う。── 今日、そんなに動いていないのに、なんでこんなに疲れているんだろう。

思い当たることは、ひととおり試したはずです。散らかりが原因かと片付けた。暗いのかと照明を替えた。椅子にクッションも足した。それぞれ少しは良くなった。でも、夕方のあのぐったりした感じは、なぜか残っているのではないでしょうか。

そして調べてみると、出てくるのは片付けの記事か、椅子の買い替えをすすめる記事か、「心が疲れているのかもしれません」という話です。どれも間違ってはいません。ただ、どれも「原因はひとつ」という前提で書かれているのです。ひとつを直しても疲れが残る理由は、そこにあるのかもしれません。

私は住宅設計の経験を経て、現在は作業療法士として活動しています。訪問の仕事で家に上がるたびに思うのは── 疲れは、その人の体力だけでなく、その人が過ごしている場所の条件にも左右されている、ということです。

この記事では、ダイニングの疲れを「空気・温度・光・音・椅子と机・動線」という6つの環境から見つめ直し、それらがどう重なって疲れをつくるのかを解いていきます。近年は、室内の環境が集中力や睡眠、そして「活力」そのものに影響することを示す研究が出てきています。疲れの一部は、測って、確かめて、変えられるものなのです。

読み終えたとき、「なんとなく疲れる」というぼんやりした感覚が、「うちはここから手をつければいい」というはっきりした判断材料に変わっているはずです。

正解はひとつではありません。ただ、最初にひとつだけ考えてみてほしいのです。今日のあの疲れは、本当にあなたの体力のせいだったのでしょうか。

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目次

この記事を読むと得られること

  • 「疲れた」の中身を3つに分けて、自分の疲れがどれなのかの見当がつく
  • 片付けても照明を替えても疲れが残る理由が、「負担の重なり」から分かる
  • 空気・温度・光・音・椅子と机・動線、それぞれの確かめ方と目安が手に入る
  • 6つのうち「足を引っぱっているもの」を見つけて、今日ひとつだけ動かす方法が分かる
  • 「今日は何もしていないのに疲れた」を、家族に説明できる言葉に変えられる

その「疲れた」は、3つのうちのどれですか

体の疲れ、気持ちの疲れ、頭の疲れの3つの分類
図:今日の夕方の自分に近いのは、どのカードでしょうか

私たちは疲れを、たったひと言で済ませています。「疲れた」。この言葉のなかに、まったく性質の違うものが同居しています。

疲れは、大きく3つに分けてみると見当がつけやすくなります。体の疲れ、気持ちの疲れ、頭の疲れ。分けないまま対策を打つと、的が外れやすくなります。食卓での姿とあわせて見てみてください。

体の疲れ ── 肩、腰、首に出るもの

夕食の後、食器を下げようと立ち上がった瞬間に「よいしょ」と声が出る。首の後ろが重い。腰が固まっている感じがする。

→ これは筋肉が長く働き続けた結果です。座っていた時間の長さと、そのあいだ体が支えられていたかどうかが関わっています。

気持ちの疲れ ── 休んでいるのに休めないもの

椅子に座って、テレビもつけず、何もしていない。それなのに落ち着かない。目の前の書類の山や、シンクの洗い物が視界の端に入るたび、体のどこかが緊張したままになる。

→ これは「休息の姿勢をとっているのに、休息できていない」状態です。体は座っていても、注意はまだ働き続けている。

頭の疲れ ── 夕方、判断ができなくなるもの

夕方5時。「今日の夕飯どうする?」と聞かれて、答えが出てこない。冷蔵庫を開けて、閉めて、また開ける。朝なら3秒で決められたはずのことが、決められない。

→ これは、判断する力が目減りしたように感じる状態です。難しいことを考えた日でなくても、小さな判断が1日じゅう続いた日の夕方に起きることがあります。

1つでも心当たりがあったなら、原因はあなたの体力や気力だけではないかもしれません。この3つは、関わっている環境がそれぞれ違うからです。体の疲れには椅子と机、温度、動線が、気持ちの疲れには目に入るものや音が、頭の疲れには空気や光が関わっています。このあと①で紹介するように、空気がこもると判断のテストの点数が下がったという研究もあります。だから片付けだけでは、椅子だけでは、届かないところが残るのです。

次の章で、その「届かなさ」の正体を見ていきます。

疲れは、小さな負担が重なって起きる

空気、温度、光、音、椅子と机、動線の小さな負担が、同じ食卓で重なっている図
図:夕方の食卓で、いくつ当てはまるか数えてみてください

多くの記事は、疲れる部屋の特徴を並べます。散らかっている、暗い、家具が大きい── どれも本当のことです。ただ、1つずつ並べて読んでいると、1つ直せばその分だけ確実に楽になるはずだ、と思えてきます。

実際の暮らしは、そうなっていないように思います。

空気が少しこもっている。足元が少し冷える。照明が少しまぶしい。テレビの音が少し気になる。椅子が少し高い。何度も席を立つ。ひとつひとつは「少し」で、どれも我慢できる程度です。ところが、それが同じ時間、同じ場所で重なると、夕方にはぐったりしている。どれも「悪くない」のに、全体としては疲れる部屋になるのです。

この見方が役に立つ理由は2つあります。

ひとつは、「片付けたのに疲れる」の説明がつくこと。散らかりをしっかり片付けても、足元の冷えやこもった空気が残っていれば、疲れも残ります。あなたの努力が足りなかったのではありません。疲れをつくっていたのが、片付けだけではなかったというだけのことです。

もうひとつは、全部を一度に直さなくていいと分かること。重なっている負担のうち、ひとつを軽くするだけでも、全体が楽になることがあります。足を引っぱっていそうなひとつを選んで、そこから手をつける。それが無駄の少ない一手になります。

ひとつ断っておくと、こうした負担の重なり方を、数字で確かめた研究があるわけではありません。暮らしを見直すときの見方として、お伝えしています。

では、その6つとは何か。見ていく前に、ひとつだけ確かめておきたいことがあります。

6つを見ていく前に──あなたはこの食卓で、どんな状態でいたいですか

穏やかに夕食を過ごす食卓と、子どもの宿題を90分見守る食卓では、必要な明るさも椅子も違うことを示す比較図
図:あなたの食卓がよく使われるのは、1日のどの時間でしょうか

環境を点検する前に、順番として先に決めることがあります。あなたがこの場所で、どんな状態でいたいのかです。

「疲れない部屋」と言っても、何をする部屋かによって見直すものは変わります。夕食を穏やかに過ごしたい食卓と、子どもの宿題を90分見守る食卓では、必要な明るさも椅子も違うのです。ここが決まらないまま環境をいじると、直してもしっくりこない状態が続きます。

心理学には、「どんな場所なら、疲れた注意力が回復しやすいか」を考える理論があります。そこで条件のひとつに挙げられているのが、自分がやりたいことと、その場所が噛み合っているかです(Liu ら、2024年のレビュー)。

少しだけ手を止めて、5つの問いに答えてみてください。頭の中でかまいません。

  • 大切なこと:この食卓で、あなたが大切にしたいことは何ですか
  • なぜ・何を:あなたはこの場所で、なぜ、何をしていますか(食事だけとは限らないはずです)
  • いつ・誰と:それは1日のいつで、誰と一緒の時間ですか。ひとりの時間はありますか
  • 意味:その観点から見たとき、ダイニングはあなたにとってどんな場所ですか
  • どのように:いまの明るさ・椅子・温度・音は、その時間に合っていますか

最後の問いで「合っていないかもしれない」と思ったなら、それがこの記事の出発点です。先に決めるのは、過ごし方です。ここからようやく、6つを見ていきます。

6つの環境を、ひとつずつ見ていく

ダイニングの6つの環境を、座っているあいだ体が受け続ける環境、体を支える環境、動いている間の環境の3つに分けた図
図:このあと、①空気から順に見ていきます

性質ごとに分けてお話します。 ①から④の「空気・温度・光・音」は、座っているあいだ体が受け続ける環境です。 ⑤の「椅子と机」は、その体を支える環境。 そして⑥の「動線」だけは、動いている間の環境です。 少し性質が違うので、最後に置きました。

① 空気 ── 換気は、頭の冴えにつながっている

まず、見落とされている環境からです。

模擬オフィスで24人が過ごした研究では、二酸化炭素の濃度が高い日ほど、意思決定のテストの点数が下がったと報告されています(Allen ら、2016)。寮の個室で換気のファンを止めるか動かすかだけを変えた実験でも、換気した条件で、睡眠の質と翌日の集中力が改善しました(Strøm-Tejsen ら、2016)。

ただし、二酸化炭素そのものが悪者なのかは、研究者の間でまだ決着していません。純粋な二酸化炭素だけを足しても影響は見られず、人の体から出る他の物質を伴ったときに、頭痛・疲労・眠気が強まったという研究もあるからです(Zhang ら、2017)。

でも、どちらの立場でも、やることは同じです。二酸化炭素の濃度が高いのは、換気が足りていないというサインだからです。住宅に義務づけられた数字ではありませんが、事務所などを対象にした日本の建築物環境衛生管理基準では、1,000ppm以下という値が使われています(厚生労働省)。

ダイニングは、家族が長い時間ひとつの部屋に集まり、そこに調理の湯気や燃焼が加わる場所です。空気がこもりやすい部屋です。

目安:夕方、頭がぼんやりしてきたら、まず窓を10cmだけ開けてみてください。寒い季節でも数分で構いません。それで少し楽になるなら、空気も疲れの候補のひとつです。窓を開けると温度や音も変わるので、決めつけずに試してみてください。

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寒い季節は、換気の設備も確かめてみてください。2003年7月以降に建てられた住宅には、24時間換気の設備が原則としてついています(国土交通省)。寒さや音が気になって、止めたままになっていないでしょうか。二酸化炭素の濃度は、家庭用の測定器でも確かめられます。

夕方に頭がぼんやりしたら、窓を10cm開けて換気を試す図
図:窓を開けたあと、頭の重さが変わるかどうかを見てみてください

② 温度 ── 18℃は、ぎりぎりの下限

「暖房はついているのに、なんとなくだるい」。この違和感には、理由があります。

人が感じる温度は、空気の温度だけでは決まりません。周りの壁や窓や床の表面温度も、同じくらい関わっています。風の弱い室内では、おおよそその中間あたりが体感の目安になると説明されます。空気が20℃でも表面が10℃なら、体感はおよそ15℃。同じ「20℃」でも、体験はまるで別ものです(健康に暮らす住まいの設計ガイドマップ)。

もうひとつ、見落とされがちな数字があります。世界保健機関は冬の最低室温として18℃以上を勧め、事務所などを対象にした日本の管理基準も、2022年4月に17℃から18℃へ引き上げられました。ところが、オフィス作業に近い課題を扱った研究をまとめたレビューでは、はかどり具合が最も高くなるのは約22℃と報告されています(Seppänen ら、2006)。

つまり、18℃は「体を守るための下限」です。頭がよく働く温度は、もう少し上にあります。ちなみに、断熱リフォームを予定していた全国2,190世帯で、リフォーム前の冬に室温を測った調査では、居間の平均は16.8℃でした(Umishio ら、2020)。平均で見ても、下限に届いていなかったのです。

目安:暖房の設定温度を見る前に、窓ぎわの壁と床に手のひらを当ててみてください。ひやりとするなら、室温の表示より寒く感じているかもしれません。まずは、座る位置を窓ぎわから少し離す、足元に敷物を1枚置く、といった一手から始められます。

窓ぎわの壁と床の冷たさを手で確かめ、座る位置を窓から離して足元に敷物を置く図
図:敷物や座る位置なら、今夜のうちに変えられます

温度そのものをもっと深く知りたい方はダイニングの温度の考え方とダイニングの床材選び、家の性能から見直したい方はダイニングと高気密高断熱で詳しく扱っています。

③ 光 ── 家の中は、外よりずっと暗い

家にいる日ほど疲れる、という感覚に心当たりはありませんか。光の量を知ると、腑に落ちるかもしれません。

東京都市大学の小林茂雄氏が、働く5人の目の高さで明るさを実測したところ、オフィス勤務では300ルクス前後、在宅では150ルクス前後でした。一方、屋外は曇りの日でも1万ルクス、晴れれば10万ルクスに達します(小林、2021)。家の中は、外の数十分の1から数百分の1という明るさなのです。

光の量は、気分だけの話ではないかもしれません。窓のあるオフィスとないオフィスで働く49人を比べた予備的な研究では、窓のない環境の人は「活力」の得点が低く、睡眠の質も良くなかったと報告されています(Boubekri ら、2014)。比べただけの研究なので、窓が原因とまでは言えませんが、見過ごせない差です。

そして夜は逆です。先の調査では、夜22時の室内でも目の位置で約100ルクス、色は昼間の光に近い白さ(約4,400ケルビン)のままでした。寝室の照明を、就寝前は弱く暖かい色に落とし、起床前はゆっくり明るくする。この組み合わせを4人で試した小さな実験では、深い睡眠の割合が19.7%から22.9%へ増えたと報告されています(小林、2021)。

日中に浴びる光と夜の光は、その夜の眠りを通して、翌日の疲れにも関わってきます。

目安:朝、少しの時間でも明るい窓ぎわで過ごす。そして食事を終えてから寝るまでのダイニングは、思っているより暗くて構いません(宿題や書きものをする時間は別です)。

朝は明るい窓ぎわで過ごし、夜は照明を抑える、光の使い分けの図
図:朝の窓ぎわの数分は、その夜の眠りにもつながっていきます

光の選び方そのものはダイニング照明は「健康と食卓の質」で選ぶ、朝の光の入れ方はダイニングの窓へどうぞ。

④ 音と情報量 ── 「気にならない音」で人は疲れる

うるさい部屋が疲れることは、誰でも知っています。問題は、うるさくない音でも疲れるということです。

模擬オフィスで学生47人が2時間の記憶課題に取り組んだ研究があります。騒がしい条件は、話し声や電話の音を含むオフィスの物音で、音量は51デシベル。静かな事務所と同じくらいです。それでも、思い出せた単語が少なく、自分をより疲れていると評価し、やる気も低かったと報告されています(Jahncke ら、2011)。音量が大きくなくても、話し声のように意味のある音は、注意を引っぱり続けることがあるのです。家の食卓なら、つけっぱなしのテレビや、鳴り続けるスマートフォンの通知がこれにあたります。

音と並んで関わってくるのが、目に入る情報の量です。共働きの夫婦30組(60人)に自宅を案内してもらい、その語りを分析した研究では、「散らかっている」「やりかけ」といった言葉が多い家の妻ほど、唾液に含まれるストレスホルモンが夕方になっても下がりきらず、1日のうちに気分の落ち込みが強まっていたと報告されています(Saxbe & Repetti、2010)。

ただ、これは相関を見た研究であり、どちらが原因かは分けられていません。散らかっているから疲れるのか、疲れているから散らかるのか。研究の側でも決着していないのです。

裏を返せば、散らかりをあなたの心がけだけの問題として片づけなくてよい、ということです。

目安:音を消すのは難しくても、視界に入るものは今日から減らせます。食卓に座ったとき、正面に何が見えていますか。

テレビや通知、視界に入るものを減らして、食卓を見直す図
図:まずは、座ったときに正面に見えるものから

片付けと設計の関係はダイニングが片付かない理由は設計にある、食卓の音と会話の関係は家族の会話は話し方より環境で詳しく扱っています。

⑤ 椅子と机 ── 座っていても、体は休んでいるとは限らない

座っているあいだ、体は休んでいる。そう思いがちですが、座っているあいだも、首や背中の筋肉は体を支えて働き続けています。

とくにはっきりしているのは、姿勢が崩れたときです。健常な22人に、座ったまま体を大きく前に傾けた姿勢を短い時間とってもらい、筋肉の働きを測った実験では、前に傾けると、肩と背中の筋肉の活動がどの条件でも有意に増えました。まっすぐ座っていれば、座面の高さによる差は出ません(Bertolaccini ら、2016)。疲れそのものを測った研究ではありませんが、前かがみの姿勢が肩や背中の筋肉を多く使わせることは、はっきりしています。問われているのは、前かがみにならずに済む環境かどうかです。

そして、その環境が最初から体に合っていない場合があります。日本の人間工学の研究では、事務机として適切な高さは男性で68〜70cm、女性で66〜68cmとされています。同じ研究室が1,000人余りを対象に、作業のあとの疲れと机の高さの関係を調べたところ、女性従業員が目・肩・ふくらはぎの疲れを訴えた数は、男性の2倍にも達しました。女性にとって、机が高すぎたのです。試しに女性用として68cmの机を使ってもらうと、疲れを訴えた数は3分の2に減ったと報告されています(インテリアと人間工学)。

机が体に合っていなければ、同じ時間座っていても、疲れ方は変わってきます。そもそも、あなたの体に合わせて作られていなかった可能性もあるのです。

同じ研究室は、作業用から休息用まで、椅子が体を支える条件を6つの型に分けて示しています。作業に向く椅子は腰を支え、くつろぐための椅子ほど、胸から頭まで支える必要がある。用途によって、支えるべき場所から違うのです。ところが多くの家庭では、高さも角度も変えられない1脚の椅子に、食事も宿題の付き添いもパソコン作業も長話も担わせています。

なお、ダイニングの椅子そのものを対象にした疲労の研究は見あたりませんでした。ここで挙げたのは学校家具やオフィス家具の知見であり、食卓への当てはめは推測を含みます。

目安:足の裏が床につくか。肘が置けるか。そして、高さも角度も変えられない1脚に、全部をやらせていないか。全部を担っている椅子があれば、その1脚から調整してみてください。

足の裏と肘が支えられているかを確かめ、椅子と机を調整する図
図:足が床に届かないときは、足を置く台を置くのもひとつの方法です

椅子の選び方はダイニングチェアの考え方、テーブルの高さと70cmの話はダイニングテーブルの選び方、子どもの場合は子どもの食事姿勢と椅子の考え方で詳しく扱っています。

⑥ 動線と配置 ── 1日に何回、立って歩いていますか

最後は、性質の違う環境です。

家事動線を短くすれば疲れが減る── 家づくりの記事でよく見かける話です。そして、これは正しい指摘だと思います。移動が減れば体力は温存されます。私も設計の現場で、動線は何度も検討してきました。

ただ、2つだけ補わせてください。ひとつは、多くの記事が新築を前提にしていること。間取りを描き直せる人には有効でも、いま住んでいる家をどうするかの答えにはなりません(このブログの動線の記事では、いまの家でできる見直しを扱っています)。

もうひとつは、距離に加えて、回数も見てほしいということです。3歩の距離でも1日40回通れば120歩、10歩の距離でも1日2回なら20歩。1回が短くても、回数が重なれば歩数は増えていきます。そしてダイニングは、キッチンと玄関と洗面所と階段をつなぐ交差点── 1日に何度も横切られる部屋です(深掘りはダイニングの動線とキッチンとダイニングの関係性へ)。

「回数を減らす」考え方には、作業療法の分野で長く使われてきた方法があります。エネルギー温存法と呼ばれるもので、動作を省く、置き場所を変える、順番を組み替える、という地味な工夫の集まりです。多発性硬化症の患者169人を対象にした無作為化比較試験では、作業療法士が指導したこのコースによって、疲労の影響を測る尺度の一部が有意に下がり、活力の得点が有意に上がったと報告されています(Mathiowetz ら、2005)。効果は1年後にも保たれていました。

ただし対象は慢性疾患のある方々で、健康な子育て世代を対象にした同様の研究は見つかりませんでした。リハビリの世界で確立した考え方を、暮らしに応用してみるという提案です。

目安:食事中に取りに立つもの(調味料、ティッシュ、子どものコップなど)を、席から手の届く場所にまとめる。立ち上がる回数が1回減れば、その分の動きが毎日まるごと減ります。

食事中に取りに立つ物を、席から手の届く場所へまとめる図
図:明日の夕食で、何回席を立ったか数えてみてください

まず、ひとつだけ動かす

空気、温度、光、音と情報量、椅子と机、動線を確かめる6つの問い
図:スマートフォンに保存して、今夜の食卓で確かめてみてください

6つを見てきました。全部を直す必要はありません。足を引っぱっていそうなひとつを選んでみてください。

今夜の食卓で、6つの問いを確かめてみてください。「いいえ」がついたところが、いま足を引っぱっている環境かもしれません。

  • 空気:食事のあいだ、換気扇や24時間換気が動いていますか
  • 温度:窓ぎわの壁や床に触れて、ひやりとしませんか
  • 光:午前中に、明るい窓ぎわで過ごす時間がありますか
  • 音と情報量:食卓に座ったとき、正面にやりかけのものが見えていませんか
  • 椅子と机:足の裏が床についていますか。肘を置けますか
  • 動線:食事のあいだ、何度も席を立たずに済んでいますか

「いいえ」が複数ついた方も、慌てなくて大丈夫です。負担が重なって起きているからこそ、ひとつを軽くするだけでも、全体が楽になることがあります。一度に全部を変えると、何が関わっていたのか分からなくなります。どれから選ぶか迷ったら、最初の章で強く当てはまった疲れから選んでみてください。体の疲れなら椅子と机・温度・動線、気持ちの疲れなら音と情報量、頭の疲れなら空気か光です。それでも決められなければ、今日すぐ試せるものからで構いません。

そして、変える一手は小さいほど続きます。窓を10cm開ける。座る位置を窓ぎわから離す。食事中に取りに立つものを手元にまとめる。夜の照明をひとつ落とす。今日ひとつだけで構いません。

なお、この6つの点検は、あくまで暮らしの目安です。「わが家では何を大切にしたいのか」という問いが先にあってこそ意味を持ちます。その順番については、価値観に沿ったダイニングづくりでより深く扱っています。

それでも疲れが取れないとき

突然の強い症状はすぐ医療機関へ、数週間続く疲れは医療機関で相談することを示す案内図
図:迷ったときは、かかりつけ医に相談してください

最後に、大切なことをお伝えします。

この記事で扱ったのは、住まいの環境から説明できる範囲の疲れです。疲れには、住まいでは説明できないものもあります。

突然の強い息苦しさや胸の痛みなど、急に起きた症状は、この記事の話とは別です。すぐに医療機関へ連絡してください。

そのうえで、住まいを見直しても改善しない場合、休んでも回復しない疲れが数週間以上続く場合、あるいは体重の変化・息切れ・めまい・気分の落ち込みを伴う場合── そのときは、医療機関で診てもらうことを考えてみてください。貧血、甲状腺の働き、睡眠時無呼吸、産後の体調の変化、こころの不調など、原因はさまざまです。とくに、気分の落ち込みや眠れない状態が2週間以上続くときは、早めに相談してください。

住まいを見直すことと、体を診てもらうことは、両方進めてよいものです。この記事は診察の代わりにはなりません。気になる症状があれば、迷わずかかりつけ医へ。

まとめ|疲れの一部は、住まいの側で減らせる

空気、温度、光、音と情報量、椅子と机、動線で、今日試せる小さな一手のまとめ
図:試したあとは、翌日の夕方の疲れ方を比べてみてください

6つの環境を振り返ります。空気は頭の冴えにつながる(まず窓を10cm)。温度の18℃はぎりぎりの下限(窓ぎわの壁と床の冷たさを手で確かめる)。光は朝を明るく、夜を暗く。音と情報量は目に入るものも含めて見直す。椅子と机は、高さも角度も変えられない1脚に全部をやらせない。動線は距離に加えて回数を見る。

そして全体を貫くのは、ひとつの見方の切り替えです。疲れは、小さな負担が重なって起きている。

片付けの記事も、椅子の記事も、動線の記事も、間違ってはいませんでした。ただ、どれもひとつの環境の話をしていたのです。あなたの疲れには、まだ手をつけていない環境も関わっているのかもしれません。

「今日は何もしていないのに疲れた」。この言葉が言いにくいのは、わがままに聞こえるからではないでしょうか。でも、「冬の夕方、この部屋は16℃しかない。世界保健機関が勧める18℃に届いていないらしい」と言えたなら、それは疲れを説明する手がかりになります。「夕方の食卓は、テレビの音と窓ぎわの冷えが重なっている」でも構いません。

その疲れは、あなたの体力や努力だけのせいではないかもしれません。住まいと暮らしが、まだかみ合っていないだけかもしれません。そしてかみ合わせは、測って、確かめて、少しずつ直していけます。家がもう一度、ほっと休める場所に戻るように。

今夜、食卓に座ったら、6つの問いのうち、ひとつだけ確かめてみてください。そこから見えてくるものが、あなたの家の判断材料になります。

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出典

  • Strøm-Tejsen P, Zukowska D, Wargocki P, Wyon DP(2016)The effects of bedroom air quality on sleep and next-day performance. Indoor Air 26(5):679-686. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26452168/
  • Allen JG, MacNaughton P, Satish U, ら(2016)Associations of Cognitive Function Scores with Carbon Dioxide, Ventilation, and Volatile Organic Compound Exposures in Office Workers: A Controlled Exposure Study of Green and Conventional Office Environments. Environmental Health Perspectives 124(6):805-812. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4892924/
  • Zhang X, Wargocki P, Lian Z, Thyregod C(2017)Effects of exposure to carbon dioxide and bioeffluents on perceived air quality, self-assessed acute health symptoms, and cognitive performance. Indoor Air 27(1):47-64. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26825447/
  • 厚生労働省「建築物環境衛生管理基準」(二酸化炭素1,000ppm以下、温度18℃以上28℃以下。温度の下限は令和4年4月1日に17℃から18℃へ改正) https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei10/
  • Seppänen O, Fisk WJ, Lei QH(2006)Room temperature and productivity in office work. Lawrence Berkeley National Laboratory, LBNL-60952. https://eta-publications.lbl.gov/sites/default/files/lbnl-60952.pdf
  • World Health Organization(2018)WHO Housing and Health Guidelines. 低室温と断熱の章 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK535294/
  • Umishio W, Ikaga T, Fujino Y, ら(2020)Disparities of indoor temperature in winter: A cross-sectional analysis of the Nationwide Smart Wellness Housing Survey in Japan. Indoor Air 30:1317-1328. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7689703/
  • 小林茂雄(2021)在宅勤務時代の生活リズムを調整する照明環境. Environment and Building Services, No.175, pp.1-9 ※査読論文ではなく専門誌の解説記事
  • Boubekri M, Cheung IN, Reid KJ, Wang CH, Zee PC(2014)Impact of Windows and Daylight Exposure on Overall Health and Sleep Quality of Office Workers: A Case-Control Pilot Study. Journal of Clinical Sleep Medicine 10(6):603-611. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24932139/
  • Jahncke H, Hygge S, Halin N, Green AM, Dimberg K(2011)Open-plan office noise: Cognitive performance and restoration. Journal of Environmental Psychology 31(4):373-382. https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0272494411000429
  • Saxbe DE, Repetti R(2010)No Place Like Home: Home Tours Correlate With Daily Patterns of Mood and Cortisol. Personality and Social Psychology Bulletin 36(1):71-81. https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0146167209352864
  • Bertolaccini GDS, Nakajima RK, Carvalho Filho IFP, Paschoarelli LC, Medola FO(2016)The influence of seat height, trunk inclination and hip posture on the activity of the superior trapezius and longissimus. Journal of Physical Therapy Science 28(5):1602-1606. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4905920/
  • Mathiowetz VG, Finlayson ML, Matuska KM, Chen HY, Luo P(2005)Randomized controlled trial of an energy conservation course for persons with multiple sclerosis. Multiple Sclerosis 11(5):592-601. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16193899/ / 1年後追跡(2007)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17975450/
  • Liu Y, Zhang J, Liu C, Yang Y(2024)A Review of Attention Restoration Theory: Implications for Designing Restorative Environments. Sustainability 16(9):3639. https://www.mdpi.com/2071-1050/16/9/3639
  • インテリアと人間工学(第7章 いすと机への応用)※著者保管の書籍。机の高さの目安と、1,000余人を対象にした机の高さと疲労の調査はp.143(小原研究室)。椅子の6つの型(プロトタイプI〜VI型)はp.153〜
  • 国土交通省「建築基準法に基づくシックハウス対策について」(居室を有するすべての建築物に機械換気設備の設置を原則義務づけ。2003年7月1日施行) https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_tk_000043.html
  • 『健康に暮らす住まいの設計ガイドマップ――生活環境病の予防に向けて』建築技術、2025年(断熱性能・熱環境設計/第5章 リラックス・コミュニケーション)。体感温度の考え方はこの資料による

この記事で使わなかったこと(誠実さのために)

  • ダイニングテーブル・ダイニングチェアそのものを対象にした疲労の査読研究は、確認した範囲では見つかりませんでした。⑤で紹介したのは学校家具・オフィス家具の知見であり、食卓への当てはめは推測を含みます。
  • 健康な子育て世代を対象としたエネルギー温存法の研究も見つかりませんでした。⑥は慢性疾患のリハビリで確立した考え方の応用提案です。
  • 「散らかりは脳の処理資源を奪う」という説明の根拠としてよく引かれる視覚野の研究は、家の散らかりを扱ったものではないため、本文では使用していません。

※ この記事でお伝えするのは、公的な基準ではなく、建築設計と作業療法の視点から見た「暮らしの目安」です。正解を押し付けるものではなく、あなたが自分の住まいを見つめ直すための判断材料としてお使いください。

この記事を書いた人

暮らしの困りごとを、住まいから解決する人。

「片付かない」「家事が大変」「子どもが集中しない」──そんな毎日の悩みを、住まいの工夫から考えます。

建築と作業療法の経験をもとに、住宅・家具・インテリア・照明・家電などを「暮らし」の視点で読み解き、毎日が少し心地よくなるヒントを発信しています。

住まいが変わると、暮らしが変わる。

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